テレビ東京「ガイアの夜明け」など、テレビで話題沸騰! 京都・西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝さん。1200年続く伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)を、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど一流ブランド店の内装に展開するなど、衰退する西陣織マーケットに新風を吹き込む若き経営者だ。その取り組みは、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集める元ミュージシャンという異色の経歴の持ち主。そんな細尾氏の初の著書が『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。細尾氏のユニークな発想法、経営手法の一端を同書から抜粋・編集してお届けする。

【TVで話題!】人を魅了してやまない「美」は、どこから生まれるのか?Photo: Adobe Stock

前例や慣習にとらわれていては、
未来はない

 現在、細尾の軸となる事業は、着物や帯のプロデュースと卸売であり、売上全体の八割を占めています。

 残りの二割が海外展開を始め、新しく始めた事業ですが、将来的にはこれを五割にまで持っていきたいと考えています。

 もちろん、そのためには乗り越えなければならない課題もあります。

 何より私たちは三〇〇年以上の伝統を持つ、「工芸」の会社です。

 西陣織は職人が丹精を込めて一枚一枚織っていく「作品」であり、それがなければ世界中の人々に感動を与えてきた伝統的な「美」はつくりあげられません

 一方で現代の産業に求められるのは、多くが「工業」の考え方で生まれてきたものです。

 より美しいものが求められることは確かですが、商品が量産できるラインに乗り、いつでも誰でも、それを手にできるようにしなければビジネスとして成立しづらい時代です。

 しかし、そんな「工業」にも、限界が来ていることは確かです。

 すでに日本も市場が成熟し、あらゆるモノが溢れた結果、心から「欲しい」と思えるような商品が生まれにくくなっています。

 また大量生産、大量消費に伴う、環境への負荷など、多くの問題が明るみになってきています。

 そんな世の中で、いくら工業的なアプローチを続けても、魅力的なものは生み出せなくなっているのが現実なのです。

(※本稿は『日本の美意識で世界初に挑む』の一部を抜粋・編集したものです)

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。2021年9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。