NHK「プロフェッショナルの流儀」で紹介され話題沸騰! 1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」の12代目経営者・細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書のエッセンスを抜粋してお届けする。
茶碗の中に宇宙がある
皆さん、「曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)」をご存じでしょうか?
曜変天目茶碗は約八〇〇年前、南宋時代の中国福建省の建窯(けんよう)で生まれ、日本に渡り、天下の名碗として足利義政や徳川家康など時の権力者たちを魅了してきた茶碗です。
漆黒の茶碗の内側には星のようにもみえる大小の斑文が広がり、見る角度によって七色の光が表情を変え、「茶碗の中に宇宙がある」とも評される、えも言われぬ不思議な魅力を持った茶碗です。
現存するものは世界で三碗のみとされますが、そのすべてが日本にあり、三碗とも国宝に指定されています。
それらがどうやって作り出されたのか、その製法は未だ解き明かされていません。窯の中で焼成中に何らかの影響を受けて偶発的に生まれたものだとされています。
そして面白いことに、この曜変天目は、中国では失敗作として認識されていたものだったのです。それを日本の美意識では、この不完全さ、偶然生まれた美に対し、最大級の美の価値を見出しています。
つまり、時代や場所、見る人の美意識によって、価値観は完全に変わるのです。
日本の美意識は、なんと寛容で、想像力のある、多様性に満ちた豊かなものでしょうか。