苦く悲しい経験を乗り越えたい、怒りを忘れたい、不安をなくしたい…そんな誰もが感じる“いやな気持ち”は、心にまとわりついて、なかなか忘れられないものです。でも、それを忘れたり無理に取り除くのでなく、意識的に、しかも自然に「手放す」ことができたら?それには、考え方のコツがあるのです。

 終わりの見えない仕事や、ややこしい人間関係、つらい記憶やトラウマーーこれらの問題は、挙げればきりがありません。苦く悲しい経験を乗り越えたい、怒りを忘れたい、不安をなくしたいという気持ちは、誰もが抱えるものです。

 あなたも日常生活のなかで、次のように感じることはありませんか?

「仕事が多すぎる。新しいスタッフを雇って仕事をまかせないと、このままでは倒れてしまう」

「ひとりになりたい。どこか南の島へでも行って、日常を忘れてのんびりしたい」

「義理の両親や親せきが、子どもの育て方についていろいろ口出しをしてくる。腹立たしいけれど、何も言えない」

「友人に言われたひとことが、どうしても許せない」

 このほかにも、長く抱えている感情や記憶の中には、実は手放したほうがよいことに気づかないものすらあります。

「手放す」というと、いらないものを取り除いたり、やめたりすることだと思われがちですが、それだけではありません。「手放す」とは、無理をせず、ものごとを自然にまかせることです。

 秋になると、木々は葉を落とします。一枚一枚の葉は枯れ、枝は生気を失ったかのように見えますが、それは春に新しい葉が芽吹くための準備にすぎません。そして、落葉と芽吹きを何度も繰り返しながら、木は大きく育っていきます。役目を終えた葉を手放すことは、木々にとって特別なことではありません。

 動物も人間も、食べものを消化して老廃物を排泄します。このプロセスが滞ると、さまざまな病気や不調の原因になるばかりでなく、美味しいものを食べる喜びもなくなってしまいます。「デトックス」という言葉をよく耳にしますが、わざわざ機械や人の手を借りて解毒しなくても、私たちの身体には代謝や排泄という手放すシステムが本来備わっているのです。

 つまり、手放すことは、植物や動物にとっても、私たち人間にとっても、ごく自然なことなのです。