岸田首相がウクライナを電撃訪問した。だが、ゼレンスキー大統領に「必勝しゃもじ」を贈ったという報道を見て、筆者は違和感を覚えた。戦争がこれ以上長引いても、得をするのは米英などの西側諸国だけで、戦地では尊い人命が失われていくからだ。岸田首相はウクライナ紛争の開戦直前にプーチン大統領と電話会談し、情勢についての「懸念」を表明したことがある。当時と状況は変わっているが、紛争解決に向けては、岸田首相がもう一度ロシア側と対話し、停戦の可能性を探ることも有効ではないか。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
岸田首相の「キーウ電撃訪問」に
筆者が覚えた違和感
3月下旬、日本の岸田文雄首相がウクライナを訪問した。それまでは先進7カ国(G7)の首脳の中で、ただ一人だけ現地を訪れていなかったが、ついに首都キーウでウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談を実現させた。
会談後の共同記者会見で、岸田首相は「平和が戻るまでウクライナとともに歩む」と表明。殺傷能力のない装備品の供与支援に3000万ドル(約40億円)の資金を拠出すると発表した。また、地元・広島の「必勝しゃもじ」をゼレンスキー大統領に贈呈した。
さらに、岸田首相はロシアに対して「ウクライナ全土からすべての軍・装備を即時かつ無条件に撤退すべき」だと強く要求した。
今回のウクライナ訪問には、首脳会談や犠牲者の追悼に加えて、次に示す「二つの狙い」があったと考えられる。
一つ目の狙いは、ロシアとの連携を強めている中国が、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海などで威圧的な行動を続けていることへの「けん制」だ(本連載第310回)。
二つ目の狙いは、G7の結束の強調だ。日本は今年5月に開催される「G7広島サミット」で議長国を務める予定である。その首脳である岸田首相が戦火のウクライナを訪れ、7カ国の足並みがそろうことで、サミットに向けた「地ならし」ができたといえる。
しかし筆者は、岸田首相のウクライナ訪問に違和感を覚えた。
というのも、くしくも岸田首相と同じタイミングで、中国・習近平国家主席がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談。独自の「和平案」を提案した。
一方の岸田首相は、ウクライナの徹底抗戦に必要な「装備品の供与」を決めたほか、「戦勝祈願」のしゃもじまで贈呈した。
すなわち、権威主義的な政治体制である中国が「和平」を提案し、自由民主主義国である日本(およびG7)が徹底抗戦を支持するという「逆転現象」が起きているのだ。
この状況は、自由民主主義の本質から外れているのではないだろうか。