アベノミクスは5年に及んだ円高トレンドの潮目を変えた。安倍晋三首相は「これまでの次元を超えた金融緩和」を公約として掲げ、円安・株高を促してきた。昨年11月半ばに前政権が総選挙実施を表明して以降3カ月で、ドル円は79円台から94円台へ18%上昇した。ここ何年もドル円相場を読む最善のシグナルだった米国債2年物金利は今も0.25%前後にとどまり、80円以下のドル円水準を示唆している。なぜ円相場は金利シグナルからかけ離れて下落したのか。金利シグナルは死んだのか。

 過去の景気低迷局面には、1年後程度の景気や金融政策の予想を反映する中期金利で為替を読むことに有効性があった。最近は5年間も景気低迷が続き、金利シグナルが有効に働き続けた結果、市場参加者が逆にその関係を強く認識し、金利と為替の相関が自己実現的に強められた面がある。

 米国では、金融緩和が続く一方、景気は徐々に回復しつつある。やがて米2年物金利が上向き始めると、ドル円は投機やヘッジ関連の短期の売買主導で上昇する場面が多くなってくる。今年のドル円はこのパターンに沿って、上下動を繰り返しつつ90円へ向かうと、安倍相場以前には想定していた。

 しかし、現実には米2年物金利が底をはっている間にドル円だけ急上昇した。過去のパターンと何が異なるのか。第1に、日本のマクロ政策への期待がドル円相場に先行的に作用した。長年、日本のマクロ経済・政策が米国の景況・市況に受動的、遅行的に反応するのみだったことに目が慣らされていた。