「宇宙人って、もう地球にきているの?」「宇宙はどこから生まれたの?」
だれもがいちどは考えたことがある宇宙の謎に、スタンフォード大学卒の人気マンガ家とカリフォルニア大学教授の最強コンビが答える『この世で一番わかりやすい宇宙Q&A』(ジョージ・チャム、ダニエル・ホワイトソン著、水谷淳訳)が発売された。
本記事では、本書の疑問のひとつ『どうしてテレポーテーションできないの?』の内容を全3回で公開する。(前編中編

【宇宙のヒミツ】いつか、テレポーテーションできるようになる?(後編)Photo:Adobe Stock

量子のコピーを作る

 1個の粒子の量子コピーを作るっていう問題を考えていこう。

 いまの君自身と完璧に同じコピーを作る光速テレポーテーションマシンにこだわるんだったら、それしか道はない。

 量子レベルまで同じコピーを作るためには、素粒子の量子状態をコピーしないといけない。素粒子の量子状態には、位置や速度や量子スピンなど、あらゆる量子的状態についての不確かさも含まれている。それは1つの数では表せなくて、いくつもの確率の組み合わせになっている。

 ただ困ったことに、1個の素粒子から量子的情報を取り出すためには、その粒子に何かの方法で探りを入れないといけないけれど、でもそうするとその素粒子がかき乱されてしまう。たとえ見るだけでも、光子をぶつけないといけない。

 電子に光子をぶつければその電子の量子状態がわかるかもしれないけれど、同時にその量子状態はぐちゃぐちゃになってしまう。工夫が足りないからだとか、やり方が乱暴だからとかじゃない。

 “ノークローニング定理”のせいで、オリジナルを壊さずに量子的情報を読み取るのは絶対に不可能なんだ。

 見ることも触ることもできないものをコピーするなんて、どうしたらできるの?

 簡単じゃないけれど、量子もつれを使う方法が1つある。量子もつれっていうのは、2個の素粒子の確率がリンクしあっているっていう不思議な量子的効果のことだ。

 たとえば相互作用しあった2個の素粒子があって、それぞれのスピンの向きはわからないけれど、互いに反対向きであるのはわかっている場合、その2個の素粒子はもつれあっている。一方の素粒子のスピンが上向きだったら、もう一方は必ず下向き。一方が下向きだったらもう一方は上向きだ。

 2個の素粒子を用意してもつれあわせ、それをFAX回線の両端みたいにして使うと、量子テレポーテーションを実現できる。

 たとえば電子を2個持ってきてもつれあわせ、一方をプロキシマ・ケンタウリに送り届ける。そしてもつれあった状態のまま装置にセットすれば、コピーの準備完了だ。

 ここから先はちょっと込み入っている。でも簡単に言うと、地球に残した電子を使ってコピーしたい素粒子に探りを入れる。そしてその相互作用から得られた情報を使えば、プロキシマ・ケンタウリにある電子をお望みの正確な量子コピーに変えることができるんだ。すごいことに、1個の素粒子とか、素粒子の小さな塊とかだともう実現している。

 いまのところ、1400km離れた場所で量子コピーを作ったのが最長記録だ。プロキシマ・ケンタウリには届かないけれど、まだまだこれからだ。この量子コピーマシンを素粒子数個分よりもスケールアップするのはそう簡単じゃないだろう。

 君の身体の中には1026個も素粒子があるから、すごく複雑になってしまうし、超高速でやっていかないといけない。でも確かに可能ではある。

 でも、量子的に再構成したその人間は本当の君なんだろうか?

 その人間は可能な限り一番忠実な君のコピーだろう。それが君じゃないとしたら、いったい誰が君だって言うんだい?

君がたくさん

 テレポーテーションについて考えていて一番厄介なのは、君のコピーがたくさんできてしまうことだろう。

 量子的情報をコピーしないおおざっぱなテレポーテーションマシンであれば、君のクローンをどんどん作っていくこともできるかもしれない。君の身体をスキャンしてその情報をプロキシマ・ケンタウリに送り、そこからロス128b(近くにあるもう一つの居住可能惑星)に送り、そこからさらにたくさんの惑星に送る。またはここ地球上でコピーをプリントしはじめてもかまわない。

 オリジナルと正確に同じじゃないかもしれないけれど、ある程度似ているだけでも、道徳的とか倫理的にいろんな問題が出てくるだろう。

 でも量子コピーバージョンのテレポーテーションマシンには、ありがたいことに一つ長所がある。

 量子的情報をコピーするのに使ったのと同じ量子論の原理によると、コピーし終わったオリジナルのコピーは必ず破壊されてしまうんだ。

 どんなテクノロジーを使っても、スキャンするときにどうしても量子的情報がぐちゃぐちゃになってオリジナルが壊れてしまう。

 だから残るのは送ったコピーだけだ。

転送完了

 まとめると、まばたきしているあいだに自分自身をどこかにテレポーテーションさせるのはきっと可能だ。光の速さでしか転送できなくてもかまわなくて、再構成したバージョンの君が本当の君だって受け入れられるんなら、テレポーテーションはいずれ実現するかもしれないんだ。

 おっと、一つ大事なことを忘れていた。

 この章で説明した方法でどこかにテレポーテーションするためには、君の信号を受信して君を再構成するマシンを目的地に置いておかないといけない。だからいつか君が別の惑星に転送されたいんだったら、前もって誰かが昔ながらの方法でそこまで行かないといけない。はるばる移動してね。

 誰か行ってくれないかなぁ。