JR東海「どこ行く家康」キャンペーンが、“仲違い中”の静岡市を推す納得の理由写真はイメージです Photo:PIXTA

リニア中央新幹線の静岡工区を巡っては静岡県とJR東海で対立が続いているが、一方で「政冷経熱(政治関係は冷え込んでいるが、経済関係は熱い)」ともいえる状況が進んでいる。その一例として、今年1月からJR東海が展開する、静岡エリアを中心とした「どこ行く家康」キャンペーンについて触れてみたい。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

リニア巡る静岡県とJR東海の
対立の裏側で進む「政冷経熱」

 新年度を迎え、リニア中央新幹線の静岡工区を巡り対立を続ける静岡県の川勝平太知事とJR東海の関係にも変化が生じそうだ。

 JR東海は副社長を務めていた丹羽俊介氏が4月1日に社長に昇格。12日に川勝知事を訪問して、自身が静岡生まれで勤務経験もあるとして「静岡愛」をアピールした。

 また静岡市では4月9日に行われた市長選で、元国土交通省官僚で静岡県副知事、理事を務めた難波喬司氏が当選。川勝知事の右腕としてリニア問題に取り組んだ難波氏の就任により、問題解決が遠のいたとの声も多いが、両者の関係はそう単純でもなさそうだ。

 これについては今回の主題とは異なるため深掘りはしないが、注目したいのは丁々発止の裏側で進むJR東海と静岡県の「政冷経熱」だ。

 コロナ禍で一時は平年の3分の1まで利用が落ち込んだ東海道新幹線だが、2022年度は第3四半期累計(4~12月)で平年比73%、2023年3月の平均輸送量は「のぞみ」が90%、平日が「85%」、土休日が「97%」とかなりの水準まで回復している。

 土休日と比べて平日の回復が遅れているのは、コロナ禍でリモートワークの普及や出張の縮小、取り止めなどが進んだ影響と考えられる。これに対して観光利用の回復は著しく、これまではビジネス需要が中心だったが、今後は観光の占める割合が増えていくだろう。

 JR東海は1993年開始の「そうだ京都、行こう。」など、京都や奈良のキャンペーンを展開してきたが、コロナ禍以降はこれと並行して、「定番の旅」から移動手段や場所、時間、視点をずらすことで、人混みや3密を避け、安心・安全に旅行を楽しむ「ずらし旅」を打ち出すようになった。

 しかし状況は変わりつつある。最近、都内で大型スーツケースを転がす外国人旅行者を目撃する機会が増えたと感じる人は多いだろう。事実、2023年2月の訪日外国人は147万5300人で、コロナ前の2019年の56.6%まで回復している。また日本国民の間でもコロナは既に過去の事のような空気が漂っており、今更ずらすことの価値は消えてしまったかのようにみえる。

 そのためJR東海の担当者は、ずらし旅は一定程度受け入れられたと考えているが、今後の打ち出し方は思案しているところだと述べる。