向き不向きで判断するリスク

書影『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
マシュー・サイド 著

 ここで、国の立場が逆転する別のデータを紹介しよう。たとえば数学の習熟度を比べてみると、今度は中国や日本が世界のトップクラスとなる。15歳の生徒を対象にした国際学習到達度調査(PISA)のデータによれば、2012年には中国が1位、日本が7位となっている。イギリスとアメリカは大きく引き離され、それぞれ26位、36位という結果だ。

 国によって、数学に対する意識はどう違うのか?イギリスとアメリカでは、数学は一般的に「できる」か「できない」かのどちらかだと考えられている。こういう国の子どもたちは、問題を解けないと、数学は自分には向いていないと考える。そして「数字は苦手だから」などのセリフをよく口にする。スタンフォード大学教授のジョー・ボーラーはこう言う。

「数学には向き不向きがあるという考えは、イギリス人やアメリカ人の心理に深く根付いている。数学は特別で、ほかの教科についてはそのような傾向は見られない」

 中国や日本ではまったく意識が異なる。数学はある意味、言語のように努力すればうまくなるものという認識だ。答えを間違えても、それは能力が足りない証拠でも「向いていない」証拠でもなく、学習のチャンスだ。もちろん人によって成績の差はあるが、基本的な数学力は努力すれば誰でも身につけられると考えられている。

 ボーラーは、数学の習熟度で1位となった中国・上海市を訪れたときのことをこう書いている。

 教師は(中略)まず問題を出して生徒に自分で解かせ、そのあと何人かを指名し答えさせていた。生徒たちが喜んで答えを発表する中、通訳は私のほうに身を乗り出して、教師は答えを間違えている子ばかり選んでいると教えてくれた。しかし生徒たちはみな得意気に間違えた答えを共有し合っていた。教師が間違いを価値あるものとしてとらえていたからだ。

 このように、マインドセットの違いで人や組織の成長に差が出た例はいくらでもある。我々の可能性を解き放つ手助けをしてくれるのは、成長型マインドセットだ。成長型マインドセットで物事を考えれば、失敗から学べる。失敗から学べれば、進化がもたらされる。そしてこの進化のメカニズムこそが、人や組織の成長を加速するのだ。