かつてない大きな変化に“踊らされている”状況からいかに脱却するか

「VUCAの時代」といわれて久しい。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものだが、この言葉が流行っているのは、企業や経営者が先を見通せずに苦しんでいる証左だ。結果として、かつてない大きな変化を前に呆然と立ちすくみ、対応に追われるばかりになっているのではないか。企業として生き残るには、変化を先取りする、あるいはみずから変化を起こしていくことが求められる。しかしその前に、現実に起きている変化の実像を正しくとらえる必要がある。そのためには何をなすべきか。2023年4月に発刊された『パワー・オブ・チェンジ』(ダイヤモンド社)で第1章リードを担当したデロイト トーマツ コンサルティング執行役員/パートナーの邉見伸弘氏の言葉から、そのヒントを探る。(ダイヤモンド社出版編集部)

邉見伸弘│Nobuhiro Hemmi

デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
モニター デロイト

チーフストラテジストおよびMonitor Deloitte Instituteリーダー。世界経済フォーラムフェローやハーバード大学研究員などを歴任。国際協力銀行(JBIC)、米系戦略コンサルティングファームを経て現職。専門は、シナリオおよびビジョン策定、業界横断、クロスボーダーの戦略策定支援。著書に『チャイナ・アセアンの衝撃』(日経BP)がある。

「知らないことを知らない」ことが引き起こす諸問題

「経営に求められる前提」が変化している。だからこそ、その前提と変化を知らなければならない。

 認識できていないのであれば、「知らないことを知らない」と認めることが出発点になる。「ヒト・モノ・カネ」の経営資源がそろっていても、前提が変わってしまっては元も子もない。私たちが生きているいまは、そういう時代である。経営戦略の前提が変わるかもしれない中、情報戦の重要性が飛躍的に高まっているのだ。

 多くの経営者が「何かが噛み合わない」という実感を抱いているのではないだろうか。外部で起こっている情勢と認識にズレが出てきて、どうも噛み合わない。それは、「知らないことを知らない」≒リテラシーギャップに起因するのではないかと筆者は考える。

 リテラシーギャップの観点の1つとして、言語の差を挙げることができる。日本人の英語力の弱さはたびたび指摘されているが、英語力ランキングでは先進国最下位だ。世界112カ国中で78位(注1)とベトナムやアルジェリアより下で、マダガスカル、モンゴルと並ぶ。しかも年々下降している。

注1:ETS, TOEIC L&R 2021 Report on Test Takers Worldwide

 言語能力の差は情報アンテナの差に直結する。語学力に差があると、読める論文の数に差が出てくるというのはもちろんある。それ以上に、そもそもソースが多様だという事実に気がつけない。ここがポイントである。

 世界の情報の90%以上は英語で発信されているという。実際、2010~19年の10年間のSCI(注2)論文総数における英語の論文数比率は96.19%であった。日本語(11位)は0.05%である。日本語の論文やデータベースだけを頼りにするとなると、世界で受発信されている情報の1%以下の世界に生きるというのとほとんど同じである。これが何を意味するのか、「知っていること」「知らないこと」についてリテラシーギャップが生じるということなのだ。

注2:SCIは、Science Citation Indexという学術データベースのこと。世界的に評価の高いジャーナルが収録されたデータベースとして知られている