人生100年時代、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超えている。大増税改革と言われている「相続贈与一体化」に完全対応の『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】 相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版した。遺言書、相続税、贈与税、不動産、税務調査、各種手続という観点から、相続のリアルをあますところなく伝えている。(初出:2023年6月2日)

税務署が狙う「超意外な申告漏れ」、罰金に注意!【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

税務署が狙う申告漏れとは?

 2023年度の税制改正を知る上で、相続時精算課税制度の存在は非常に重要です。あまり知られていませんが、実は、贈与税の計算方法は、暦年課税制度と相続時精算課税制度の選択制とされています。

 暦年課税制度とは、普段からよく聞く、「年間110万円まで非課税で、超えた部分に贈与税の税率をかけて贈与税を計算する」といったオーソドックスな贈与税の計算方法です。

 相続時精算課税制度とは、「贈与するときは最大2500万円まで贈与税を非課税にするが、贈与した人が亡くなったときは、過去に贈与した財産をすべて相続財産に持ち戻して相続税を計算する」という贈与税の計算方法です。この制度は、60歳以上(※)の父母、祖父母から、18歳以上(※)の子や孫などに対して行う贈与に使うことができます。(※贈与する年の1月1日時点の年齢)

 本日は、相続時精算課税制度の注意点と厄介な申告漏れについてお話しします。

 相続時精算課税制度は「一度選択すると、二度と取り消すことはできず、一生涯にわたり自動継続される」という性質に注意する必要があります。

 例えば、父から長男に対して相続時精算課税制度を選択した場合、翌年以降に行った生前贈与もすべて相続時精算課税制度の対象にされてしまうのです。

 本日は、2024年から新しくなる相続時精算課税制度の説明の前に、2023年12月31日までの制度内容を説明します。

 例えば、X1年に父から長男に1000万円の金銭を、相続時精算課税制度を使って贈与しました。このとき、贈与した金額は2500万円以下であるため全額非課税となり、納める贈与税はありません。

 続いてX2年に父から長男に再び1000万円の金銭を贈与しました。この場合、この1000万円も強制的に相続時精算課税制度の対象にされます。そして、その後に父が死亡した場合、相続財産に足し戻されるのは、X1年に贈与した1000万円と、X2年に贈与した1000万円の合計2000万円ということになります。ちなみに、もしもX3年に1000万円を贈与していた場合はどうなるでしょうか?

 X1年、X2年にそれぞれ1000万円ずつ贈与しているため、2500万円の非課税枠のうち、既に2000万円は使っています。ここに追加で1000万円の贈与をすると、2500万円を超えることになります。

 この場合、超えた500万円部分に対して、一律20%の贈与税が課税されます。つまり500万円×20%=100万円の贈与税を納めなければいけないのです。

 ただ、この贈与税は、最終的に相続税と相殺されますので、税金の負担が増えるわけではありません。また、先に払った贈与税が、最終的に計算された相続税よりも多い場合は、差額を税務署から返してもらうことも可能です。

 このように、一度、相続時精算課税制度を選択すると、その後に暦年課税制度に戻ることはできなくなります。ただし、この取り扱いは、贈与する人と、もらう人のペアごとに適用されるので、例えば、父から長男は相続時精算課税を選択しても、父から二男に対しては暦年課税を選択することも可能です。同様に、父から長男は相続時精算課税を選択しても、母から長男へは暦年課税を選択することも可能です。

注意! 少額の贈与でも申告が必要

 相続時精算課税制度は、一度選択すると、自動継続・取消不可となるため、例えばX1年に相続時精算課税制度を選択すると、X2年に、超少額(例えば1万円)の贈与を受けた場合でも、贈与税の申告義務が生じます。

 ここで気をつけなければいけないのが、「非課税枠の2500万円を使い切っていないなら、2年目以降の贈与税申告はしなくていい」と勘違いをしてしまうことです。

 例えば、X1年に1000万円の贈与を受けた場合、非課税枠は残り1500万円あるため、1500万円以内の贈与であれば、「どちらにせよ贈与税は発生しないので、贈与税申告はしなくてよい」と判断してしまうわけです。

 しかし、税務署はそんなに甘くありません。非課税枠に残りがあったとしても、2年目以降、申告期限までに贈与税の申告をしない場合には、非課税枠を使うことはできず、贈与額に対して一律20%の贈与税が課税されてしまうのです!

 ただ、この贈与税も、最終的に相続税と相殺されるので、長い目でみれば負担は増加しませんが、もしも税務調査で指摘されて贈与税を払うこととなった場合には、無申告加算税や延滞税などの罰金的な税金が課されますので、この分は純粋に負担が増えてしまいます。

 このように、相続時精算課税制度は、相続でも贈与でも税負担を同じにできるメリットがある一方で、一度選択すると少額の贈与でも申告義務が生じるなどのデメリットがあるのです。

(本原稿は橘慶太著『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋・編集したものです)