政府と日銀は2013年1月下旬に、「物価上昇率2%」を目標とする共同声明を発表した。物価安定のためだという。しかし、物価上昇率2%など、安倍政権が誕生する以前から、とっくに達成しているだろうに、というのが正直な感想だ。

 ここでいう「物価」とは一体何か。

 ビジネスパーソンが、スーパーマーケットにある豆腐や白菜に関する「日々の物価」を熟知しているケースは少ない。しかし、「ある特定の物価」については、日々熟知しているケースが多い。ガソリンや灯油の店頭小売価格だ。

 筆者のように地方都市(栃木県小山市)に住むものにとって、車は必須の交通手段だ。通勤にマイカーを使う場合、国道に数百メートルおきに林立するガソリンスタンドの「今日の価格」は、否応なしに目に入る。

 資源エネルギー庁「石油製品価格調査」を参照すると、2012年7月のガソリン(レギュラー)は1リットル139円40銭であった。2013年2月中旬では153円80銭である。7ヵ月で10.3%もの物価上昇だ。

 もちろん、ガソリンや灯油の価格上昇は、産油国情勢や円安による「輸入インフレ」であって、内需拡大による「物価上昇」とは異なる。されど、「狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば悪人なり」(徒然草)。毎週3円ずつ値上がりしていく「本日のガソリン価格」は、誰がなんと言おうと「狂気の物価上昇」だ。

 円安によって、トヨタ自動車をはじめとする輸出産業には、様々な恩恵があるだろう。ただし、それがニッポン経済の隅々へ行き渡るには、相当の時間を要する。それに対して、ガソリン小売価格の上昇は、あっという間に全国のドライバーのフトコロを直撃する。

 日銀が声明を公表する3日前、浜田宏一内閣官房参与が円ドル相場について「95円~100円であれば何も心配はない」と発言した。ガソリン小売価格は今後、160円をあっさり突破し、170円や180円にまで上昇してしまう可能性がある。