全国3000社が導入し、話題沸騰のマネジメント法「識学(しきがく)」の代表・安藤広大氏。「リーダーの言葉は遅れて効いてくる」「仕事ができる人は数値化のクセがある」などの考え方が、多くのビジネスパーソンに支持されている。近刊の『数値化の鬼』では、「感情を横に置いて、いったん数字で考える」「一瞬だけ心を鬼にして数値化する」など、頭を切り替える思考法を紹介した。
この記事では、最近、経営者の間で話題となっている「人的資本経営」という概念について語る。これからのビジネスパーソンに必須の概念を、ぜひ身につけてほしい。
順番を間違える経営者
「人的資本経営」について書かれている「伊藤レポート」は、次のような書き出しでスタートしています。
持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である。(「人材版伊藤レポート」より)
「経営戦略と人材戦略の連動が不可欠である」というのは、言われてみれば当然のことです。
しかし、さまざまな理由によって、それができていない企業が多く存在し、「経営戦略」と「人材戦略」が異なる方向に行ってしまっているのが現状のようです。
この連動を実現するために、もっとも重要なポイントは、
「順番を間違えない」
ということです。
連動という言葉が使われると、「経営戦略」と「人材戦略」は横並びに見えます。
経営戦略 = 人材戦略 ?
しかし、それが無意識に勘違いを起こす原因です。
あくまでも「経営戦略」を成功させるための「人材戦略」であり、2つの関係は横ではなく縦であるということを忘れてはいけません。
経営戦略
↓
人材戦略
あなたの職場では、横並びだったり、上下逆転して(「人材戦略」のための「経営戦略」というように)認識されているかもしれません。
それを象徴するのが、「適材適所」という言葉の乱用です。
「適材適所」という誤解
「適材適所」とは、「その人の能力・性質によくあてはまる地位や任務を与えること」という意味とあります。
社員1人1人が持っている能力や性質を起点に、「どのような仕事を与えるか」「どのようなポストを与えるか」を決定するのが「適材適所」という考え方です。
スポーツに例えるとわかりやすいかもしれません。
私は学生時代、ラグビーをやっていました。
たとえば、「足が速くて敵を交わしてトライを取ること」が好きな人が多かったとしても、その能力や趣向に合わせてポジションを決めてしまうと、チームとしてのバランスは崩れます。なぜなら、「身体が大きくて人に当たらないといけない人」や、「背が高くて高いボールを取らないといけない人」など、他にも役割が必要だからです。
仕事でも同じです。
能力や性質を起点に人材配置を決めてしまうと、目標達成のために必要な機能に人を配置することができません。あるいは、目標達成に関係のない仕事を新たに用意するようなことが起こってしまいます。
まさに、本末転倒です。
この状況こそが、まさに、「経営戦略と人材戦略が連動」していない状況です。
「適所適材」が正解である
「経営戦略と人材戦略の連動」を実現するためには、「適材適所」ではなく「適“所”適“材”」の考え方を持つことが必須なのです。
起点に考えるのは「適所」です。
組織が目標を達成するためには、どのような機能や役割が必要なのかを先に決めるのです。
そして、その役割に対して、人を配置するという順番です。
もちろん、そこで配置する際は、できる限り「適材」に近い人材を選択することは否定しません。
しかし、全員の人材が、その時点で完全な「適材」であるということは不可能です。
置かれたあとで、「適材」になるために1人1人が成長することが求められます。
ここで重要なのは、
「『適材』であるために不足を埋めることのみが、会社組織における成長である」ということです。
本当の「学び直し」とは
伊藤レポートでは、「リスキリング」や「学び直し」の必要性が書かれています。
まさにそれは、上記の「不足を埋める」ためのものでなければ意味がありません。
この点を押さえずに、「本人が学びたいこと」や「なりたい自分に近づくための学び直し」が進められても、それは会社組織においての成長とは関係がありません。
なぜなら、組織が目標達成に近づくことへの貢献度は何も変わらないからです。
「成長」の定義は個人が決めるものではなく、あくまでも会社や上司であるということです。
それを全員が認識することによって、「経営戦略と人材戦略の連動」が実現されます。
これを誤解してどれだけ素晴らしい戦略を立てたとしても、結局は上滑りになるリスクが高いのです。
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年、「識学」という考え方に出合い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2022年7月現在で、約3000社以上の導入実績があり、注目を集めている。主な著書に、20万部を突破した『数値化の鬼』、36万部のベストセラー『リーダーの仮面』(ともにダイヤモンド社)がある。