毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。
海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。
この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。
朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する。
元アクティビストから学んだアクティビスト対策とは
アクティビストファンドに対応するのもCFOの役割です。たとえば、「取締役会議長と話したい」という先方の要求に対し、「まずは、CFOである私がお会いして、会社側の見解を説明したい」と返答するのが一般的です。
この意味で、CFOは取締役を兼務しているか、少なくともオブザーバーとして取締役会に参加していることが重要です。すなわち、株主であるアクティビストファンドが相手にするのは最終的には取締役会であり、CFOが取締役会に一定の影響力や発言力があることを示すことが、対アクティビストファンド戦略上、重要な点です。
私は海外投資家との面談時、通常は通訳を付けずに英語で対話しています。通訳を付けると正確性は担保されますが、実質の面談時間は約半分となります。つまり1時間の面談も実質的には30分になってしまうのです。
30分では投資家が聞きたいすべての質問に答えるには時間が短すぎるというのが私の見解であり、そのため海外IRでも1日に5~7コマ、1時間の対話を英語で行うのを通例にしています。発言内容の文法的な正確性よりもなるべく多くの質問に答え、投資家にフラストレーションを残さないことを優先しています。
実際、かなり早口の英語で対話しても、事業数(ビジネスユニットの数)の多い三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)やニコンの場合は1時間でも足りないケースが大半です。
しかし、相手がアクティビストファンドとなると事情が異なります。必ず通訳を付け、質問と回答に齟齬がないように、また通訳者が話している時間を利用して回答の内容を考え準備するようにしています。
これは、初めてアクティビストファンドと面談する際にアドバイスをお願いした米系投資銀行の「アクティビスト対応チーム」の専門家から受けた助言に基づいています。
私は、初めてアクティビストファンドと面談するに際し、米国から専門家をアドバイザーとして呼び寄せました。そのビジネスパーソンは、弁護士資格を持つ人物で、なんと、元アクティビスト。これは人材の流動性が高い欧米ではよくある「回転ドア」とも呼ばれる人材移動・転職のパターンです。
すなわち、欧米では、元いた職場や以前やっていた仕事に対するコンサルテーションをビジネスにする、そして企業側の対抗策などを学んでまた元の職場に戻る、あるいは、政府系機関や学者に転職するというパターンがよく見られます。
私は元アクティビストで先方の手の内を知り尽くしている彼から、「言うべきこと」「言ってはならないこと」など、アクティビストとの対話での留意点を学びました。そのなかには、「些細な発言で言質を取られないように、通訳を入れること、またその通訳はできれば先方が指定する人物を使うとよい」といった実務的なアドバイスもありましたが、それ以外はより本質的なものでした。
有料で教えてもらったことであり詳細は省きますが、一言で言えば、「アクティビストだからと言って特段構える必要はなく、一般の株主や投資家と同じように対話すればよい」ということが基本です。
たとえば、IR面談で、アクティビスト側が意図的に怒らせるようなことを言ってくる場合があったとしても、「そんなに我々現経営陣の方針に不満なら、保有株を売ってもらって結構」とか「株主になってもらわなくて構わない」などと言ってはならない、あくまでも「株主になっていただいてありがたい」「ずっと株主でいてほしい」というスタンスと発言を貫き通すように、という指導を受けましたが、それは一般株主や投資家が相手でも同じことです。
実は、投資家と言い争いになり双方が激高するという局面は、一般の株主とのIR活動においても時折見られることなのです。