政権選択の時が迫っている。危機感を深める自民党は与党としての政権運営能力を誇示し、攻める民主党は閉塞状況を打破する変革力を強調する。
では、いずれの党が信頼に足るのか。掲げた改革の旗印を信じられるか。
最も簡単なリトマス試験紙は、彼らが自らの利権、既得権益にどれほど切り込むつもりか、である。大票田を失う恐怖に耐えて、合理的な政策を打ち出そうとするかである。その本気度を占う格好の材料は、農業政策であろう。
日本の農業は、過剰かつ長期に渡る保護政策で競争力を失った典型的産業である。同時に、競争力喪失という事態に開き直り、多くの年月が流れてもいっこうに解決策が講じられない日本全土に広がる既得権の岩盤である。その古くて新しい問題の構造を、まずおさらいしておこう。
日本の農業の縮図であり、象徴であるのは米である。そして、米を作る農家には、二つの謎がある。
米作農家のおよそ4割、59万戸は、0.5ha未満の水田しかもっていない。0.5ha以上1ha未満では43万戸、合計7割の米作農家が1ha以下なのだ。国際的競争力を培うには水田を大規模化し、コストダウンを促進することが必須である。専門家によれば、30ha以上は必要だ。自家用飛行機で種をまく米国などでは、一戸100ha以上を所有する農家は珍しくない。ところが、日本で1ha以下が7割を占める一方で、15ha以上の水田を所有する農家は2000戸、わずか1%である。
これら極小規模農家の農業所得は、当然のことながら少ない。というより、0.5ha以下の米作農家は年間10万5000円の赤字である。0.5haから1ha未満の米作農家は、3万6000円である。
第一に、この低所得でなぜ生活できるのか。第二に、コストダウンができない極小水田を、なぜ彼らは所有し続けているか。これが、二つの謎である。
第一の謎の答えは、他に収入源があるから、である。米作農家の7割を占めるこれら極小農家は兼業農家でもあり、総所得は0.5ha以下の米作農家で441万5000円、0.5haから1ha未満の米作農家は477万3000円となるのである。