世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。(初出:2021年8月11日)

日本人が絶対忘れてはならない「平成の米騒動」とは?【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

平成の「米騒動」を忘れるな!

 米騒動と聞けば、「大正時代、原敬を総理大臣とした日本初の本格的な政党内閣が始まるきっかけ」として習うかもしれません。

 しかし、ここでは1993年に起こった「平成の米騒動」に焦点をあてます。

 1993年、日本は深刻な米不足にあえいでいました。同年の日本の米の生産量は979万3000トンと、前年比74.1%にまで落ち込みます。原因は1913年以来、80年ぶりの大冷夏でした。

 1993年の米の作況指数は74であり「著しい不良」でした。また1991年の不足(作況指数95)により、在庫量が少なかったことも拍車をかけました。

 1991年6月15日のピナトゥボ火山の大爆発と関係があるとされています。また偏西風の蛇行とエルニーニョ現象も要因の1つにあげられます。

 エルニーニョ現象は日本に冷夏と暖冬をもたらし、ラニーニャ現象は日本に夏の猛暑、冬の寒冷をもたらす傾向があります。

 ピナトゥボ火山の噴出物の総量は10km2。20世紀最大といわれ、噴煙は高度17~26kmの成層圏にまで達しました。1ヵ月後には北緯25度から15度にまで広がったとされています。1992年に弱い冷夏が発生し、1993年には大冷夏となりました。

 加えて1993年は梅雨前線が長期間、日本列島付近に停滞しました。いったん発表された梅雨明け宣言が8月下旬に撤回される事態にも発展しています。

 梅雨前線は北側のオホーツク海気団と南側の小笠原気団との間に形成される前線です。オホーツク海気団が弱まって小笠原気団が張り出すことで梅雨明けとなりますが、1993年は小笠原気団が弱く、またオホーツク海気団が長い間強い勢力を保っていました。ここから吹き出す冷たい風を「やませ」といいます。北海道・東北地方はやませの影響を強く受けました。