オンライン研修ならではのメリットも多く見られた
1日目の最初のプログラムとして、「学生と社会人の違い」を考えるワークが始まる。受講者はZoomのブレイクアウトルームに分かれて、各人の考えをグループ内で共有し、発表資料を作成していく。対面研修では、模造紙を使って、新入社員たちが手書きしていったが、オンラインではパワーポイントを使用する。いまどきの新入社員は、誰もが手慣れた様子でパソコンを操作し、レイアウトにもグループの個性が出ていく。パワーポイントのファイルはデータとして残るので、後々の情報共有や研修の復習時にも役立つはずだ。
グループに与えられた40分間が経過して、受講者全員がメインルームに戻ってきた。ところが、ここで、ほとんどのグループのリーダーから意外な「報連相」が行われた。それは、「(発表資料をまとめるために)もう少しだけ時間をください」というもの。垂水講師は、「本来なら、その相談はどのタイミングで行うべきでしょうか? 40分間を終える前に伝えてほしかったです」と返答。各グループがワークを提出する過程においても、「時間を守ること・相談すること」といった“社会人ルール”が必要なのだと私も気づき、ハッとした。画面越しで、新入社員たちも神妙な顔つきになる。このことが印象深かった私は、研修終了後に垂水講師に尋ね、失敗の経験こそが自律型研修のポイントなのだと知った。
「考え方や行動が正解ばかりだと、その人の頭の中にはなかなか残りません。失敗したからこそ“気づき”が生まれます。この研修は、何度も失敗し、何度も学べるように作られています。“失敗を重ねて学ぶ経験”が前へと進む力になるのです」(垂水講師)
結果、グループごとのワークは10分間延長され、また、発表においては制限時間をオーバーすることもあったが、垂水講師はそこで止めずに最後まで話を聞いて、総括として、「必要な4つの意識」を解説した。4つのうち、特に大切なものとして「時間」を挙げ、「約束を守ること、限られた時間の中でパフォーマンスを行うこと」の必要性を改めて伝えた。垂水講師の教えは、新入社員である受講者たちに確実に伝わったようで、休憩後は時間よりも早くにパソコン前に待機するなど、時間厳守の意識が各人に備わっていった。
次の演習は、「経験学習」だった。研修テキスト *6に描かれた、上司と部下のやりとりについての漫画を読み、「社会人として成長するために必要なこと」をグループ内で意見交換し、全体発表する。受講者たちはすでに研修テキストに目を通していたが、他者とディスカッションすることによって、学びが深くなっていく。続く「コミュニケーション」の演習でも、適切な「報連相」や指示の受け方をグループ内で意見交換。私は、それぞれのブレイクアウトルームを見学したが、異なる企業の新入社員同士にもかかわらず、まるで、同じ企業の同期のような雰囲気で打ち解け、活発に意見交換している姿に驚いた。「オンラインは、対面よりも距離が縮まりにくいのでは?」と、私は思っていたのだが、垂水講師は、オンラインにおける“閉鎖性”が、コミュニケーションをとる上では、プラスに働くと解説する。
*6 「フレッシャーズ・コース2023」の内容を抜粋した冊子状のテキスト
「対面研修は、(他者に)見られていることを意識してしまいがちなため、口調が固くなりがちで、対話も弾まないことがあります。それに比べると、オンライン研修は、(他者に)見られている意識が低く、結果的に、オンラインという閉鎖された空間のほうがリラックスして、本音で話せるからこそ、他の人の話にも耳を傾けられます。一人ひとりが自分を開示することで、グループ内や全体にも良い影響が出て、オンラインならではのメリットがあります」(垂水講師)
1日目の研修プログラムを終え、振り返りの時間には、「仲間と意見を共有することで、より理解を深めることができた」「目的・顧客意識・時間管理の大切さを学べた」など、率直な感想がチャットに投稿された。垂水講師も、「時間に関することなどをはじめ、多くの方が学習内容をしっかり得ました」と、新入社員たちの成長を私に話してくれた。研修1日目の「試行錯誤」は、受講者全員に多くの学びをもたらしたようだ。