中国政府は「個人ビザ」を利用して
海外出国者数をコントロールしている
6月4日現在で、日本を観光で訪れる中国人は、主に個人ビザを取得している。日本政府が中国籍を持つ人の滞在には事前の査証取得を義務付けているからだ。現在、発給されている個人ビザには年収制限が存在し、取得には10万元(約200万円)以上の年収証明が必要となる。
5月に入って全国一律で原則の10万元に戻ったようだが、海外旅行解禁直後の1月は都市ごとに違っており、上海では50万元(約1000万円)以上の年収証明が必要だと、上海駐在の日本のテレビ局支局長が伝えている。
著者は2月以降、訪日中国人グループを取材してきたが、仕事を確認すると「無職」という中国人も少なくない。「親や親戚が資産家など富裕層なので、働いていない」とあっけらかんと答える姿が印象に残る。
ちなみに中国国内では、日本政府が中国人を差別していると広く認識されている。
しかし、中国政府が個人ビザの制度を国内統制に利用している側面もある。海外渡航が内政(国内統制など)に利用するための道具となっているのだ。中国政府が海外出国者の人数をコントロールできるように、ビザ申請を代理する指定旅行会社を指導しているとされるからだ。
また、訪日中国人が増えない要因として、団体旅行が禁止されたままになっているからとの指摘もある。
中国政府は、2月6日から20カ国限定で団体旅行を再開させた(3月10日に40カ国追加されて6月4日現在で60カ国)。
この20カ国とは、タイやロシア、カンボジア、ラオス、フィリピンなど習近平政権の一帯一路構想への協力国など、両国の関係が良い国や途上国が多くを占めている。いわゆる西側諸国とされる民主主義国は、ニュージーランドとスイスしか含まれていなかった。
3月の追加でフランス、イタリア、スペイン、ブラジル、ポルトガル、ベトナム、モンゴルなどが追加されている。いわば、これらの60カ国がグループ旅行を解禁された、いわば“中国政府のお墨付き”の国で、日本や米国、韓国、英国、ドイツ、カナダ、オーストラリアなどは除外されたままになっている。
この背景には、中国政府が中国人をできる限り、日本を含む西側諸国へ行かせたくないという思惑が働いている可能性が高い。特に米国には行かせたくないのだろう。中国共産党が長年にわたり、染み込ませるようにコツコツと築いてきた中国共産党史観が一瞬で崩れてしまう恐れもある。
この15年ほどを振り返っても、中国政府は、特に日本を含む西側主要国への渡航を減らすために“米国は中国敵視政策を取っている”といった理由をつけて、許可人数を絞ることを繰り返してきた(原則、海外渡航は中国政府が旅行会社へ許可人数を付与する許可制)。
だが、仮に日本への旅行に年収制限がなくなり、裾野が富裕層から中間層へぐっと広がる団体旅行が解禁されたとしても、訪日中国人は一気には増えない。なぜなら、19年の段階で全訪日中国人観光客に占める団体旅行客の割合は3~4割と半分以下になっているからだ。全体に占める団体観光客の割合はそれほど多くないのだ。