生成AI「チャットGPT」と共存できるビジネスパーソンとは

 一方、こうした事務系と言われる仕事の一部は、今後、AIに置き換わる可能性が高い点は認識しておく必要があります

 2014年、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らによって発表された論文『雇用の未来──コンピュータ化によって仕事は失われるのか』では、20年後までに人類の仕事の約50%が人工知能ないしは機械によって代替され消滅すると予測されていました[*1]。

 その後、日本の労働環境にあてはめた野村総合研究所との共同研究では、日本人の仕事の49%が人工知能などで代替可能という見通しが公表され[*2]、2020年5月に公表されたマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査では、2030年までに日本中の業務の27%が自動化され、約1660万人の雇用が、機械に代替される可能性があると指摘されています[*3]。

 こうした将来予測は、2022年11月末にリリースされた生成AIの一種である「チャットGPT」の出現で現実のものになろうとしています。

 スイスの金融グループUBSの分析によると、チャットGPTがアクティブユーザー数1億人に到達するのにかかった時間はわずか2カ月。TikTokとInstagramがそれぞれ9カ月と2年半であるのに比して、極めて速く、史上最速です。

 2023年3月29日付のウォール・ストリート・ジャーナルは、次のような記事を掲載しました[*4]。

 生成人工知能(AI)の登場で最も大きな影響を受けるとみられる専門職の一つは会計士であることが、新たな研究から分かった。会計業務のうち少なくとも半分は、生成AIを使う方がはるかに早く完了することができるという。
 ペンシルベニア大学の研究者と、対話型AI「チャットGPT」の開発元である米新興オープンAIが実施した研究によると、数学者、通訳、ライター、そして米労働人口の2割近くについても同じことが言えるという。

 会計士の仕事の半分が生成AIに置き換わる可能性があるとすれば、その会計士に監査を依頼する企業側の経理業務も同様に生成AIに代替される可能性があります。経理業務に限らず、経理・財務担当役員傘下の予算や財務、さらに人事や総務などの事務系の仕事の一定割合がこの先テクノロジーによって代替されていく未来はほぼ確実にやってくるものと思われます。

 こうお話しすると、事務系の職種で働く方々の中には不安に感じる方もいらっしゃるかと思います。

 しかし、歴史を振り返ると、新たな技術やテクノロジーの導入は、その過程において、抵抗や恐怖感、一方で期待をはらみながら繰り返されてきました。人間はどうしても目先の自分の利益を損なうような変化を拒否する傾向にあります。しかしながら、その現実から目を背けず逃げず、早く自助努力を始めることで新たな展望が開けます。

 若い世代の皆さんにとって、5~10年後、あるいは20年後になりたい自分を想定することはとても大切です。

 大リーグの大谷翔平選手は、高校時代に、達成したい最終目標である「8球団からのドラフト1位指名」を中心に置き、周囲9×9の合計81マスに細分化した目標を書き込む「マンダラチャート」を作成していました[*5]。

 企業で働く、あるいは働く予定の皆さんのうち、技術系の方々はCTO(最高技術責任者)や工場長、営業系の社員の皆さんはCOO(最高執行責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)などのゴールを設定し、そのためにみずからに不足しているものを特定し、それらを身につけるよう努力していただきたいと思います。

 そして現在、経理・財務部門や経営企画、各事業部門や子会社の企画・計数関連の部署で働いている皆さん、さらには、人事・総務を含む「事務系」で働くビジネスパーソン、あるいはそうした職種に就職しようとしている学生の皆さんには、ぜひCFOを目指していただきたいと考えます。

参考文献
*1 Frey, C. B., and Osborne, M. A., “The Future of Employment: How Susceptible Are Jobs to Computerisation?” Technological Forecasting and Social Change; Vol. 114, January 2017, pp.254-280.
*2 「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」野村総合研究所ニュースリリース、2015年12月2日
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
*3 堀井摩耶、櫻井康彰『The future of work in Japan ポスト・コロナにおける「New Normal」の加速とその意味合い』McKinsey & Company, 2020年5月
https://www.mckinsey.com/jp/~/media/McKinsey/Locations/Asia/Japan/Our%20Insights/Future%20of%20work%20in%20Japan/Future%20of%20work%20in%20Japan_v3_jp.pdf
*4「チャットGPTで最も影響を受ける職業は」​THE WALL STREET JOURNAL、2023年3月29日
https://jp.wsj.com/articles/the-jobs-most-exposed-to-chatgpt-27af7f98
*5 「『ご飯 夜7杯、朝3杯』大谷翔平が10年前に書いた、81個の“マンダラの約束”」PRESIDENT Online, 2021年7月12日
https://president.jp/articles/-/47766

※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。