「時間を投資してくれてありがとう」という“正の感情”

 二つ目の要因は、企業側の意思である不合格判断なのか、候補者側の意思である辞退なのか、社員の意思である自己都合退職なのか、などの「どちらが振った側・振られた側」なのか、という点です。「振られた側」のほうが負の感情を抱きがちであることは想像に難くないと思います。

 このような負の感情をコントロールするには、採用選考というものは「お互いにニーズがマッチする候補者または企業と出会うために必要なプロセスである」ということと、企業側だけでなく選考中の候補者も辞退のタイミングに至るまでに多くの時間を投資している、という当たり前のことを改めて認識することが重要です。そうすることにより、「相手にこんなに投資をしたのに」という負の感情を完全に打ち消すことができないまでも、「ここまで私たちに時間を投資してくれてありがとう」といった正の感情を持つことができます。

 また、最近は働き方が多様化して副業などが増えているものの、所属する企業は一社のみというのがまだ一般的です。そう考えると、選考を辞退される、内定を辞退される、または入社した企業を早期退職される、というそのタイミングまで「数多くある企業の中から自社のことを選んでくれていた」ということに感謝の気持ちを持つことができます。

 このように書くと、「言うは易く、行うは難し」と思われる採用担当の方も多いかもしれません。その場合、冒頭の思想に立ち返り、全ての学生が将来のお客さんになる可能性がある、という考えを思い出すのと同時に、解釈を少し広げてみるのはいかがでしょう。お客さんになるかもしれないのは初期選考フェーズの候補者だけでなく、内定辞退者や入社後の早期退職者にも同じことが言えるはずなのに、「経過時間」が長く、会社側が「振られた側」の立場になる内定辞退者や入社後の早期退職者に対しては、より強い“負の感情”をぶつけてしまっているケースもあるのではないでしょうか。また、お客さんになる可能性だけでなく、ビジネスパートナーや再度の候補者になることもあるでしょう。そう考えるだけで、自社から不合格にした選考者だけでなく、選考辞退者・内定辞退者・退職者をファン化するために、自身や社員の行動を変容することが重要だと考えられるのではないでしょうか。