「人的資本経営」のカギを握る「アルムナイ」。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係を築いていくかは、人材の流動性がますます高まるこれからの時代において重要だ。アルムナイ専用のクラウドシステムを提供するなど、アルムナイに関する専門家である鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)が、企業の「辞められ方」、従業員の「辞め方」を語る連載「アルムナイを考える」――その第2回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
入口となる「採用改革」と出口となる「辞め方改革」
今では当たり前のように使われる「働き方改革」という言葉ですが、2015年くらいまでは、それほど一般的な言葉ではありませんでした。インターネット上での検索数を見る限り、ピークである2019年4月と比べると、2015年は100分の1程度の検索数しかありませんでしたが、施行が順次始まった働き方改革関連法案や、コロナ禍でリモートワークが進んだ影響もあって、「働き方改革」という言葉は頻繁に使われるようになりました。
「働き方改革」が進むのはとても良いことですが、 “改革”の実状は、働く時間や場所など、現在の仕事の仕方が中心になっています。今後は中長期的なキャリア形成という視点で、入口となる「採用改革」も、出口となる「辞め方改革」も含む「働き方改革」が重要になってくるでしょう。働き方と合わせて、“採用”は大きく変革している領域の一つと言えます。ダイレクトリクルーティングやリファラル採用が一般的になり、採用をする企業側も求職者側も10年前とは違う形で採用活動を行っています。
その一方で、出口である“退職”はどうでしょうか。「退職者=裏切り者」という考えがいまだに社会全体に根強く残っており、退職後も良い関係が続くことは珍しいというのが現状です。企業側から見て、なぜこのような「退職者=裏切り者」という考えが生まれたのでしょうか。
高度経済成長期と言われる1955年から1973年の約20年間、日本の実質経済成長率は年平均10%前後で推移していました。1%以下やマイナスの経済成長率に慣れている40代以下の世代からすると、このような高度成長期の状況や、成長を牽引した要因は想像しづらいかもしれません。
この頃の経済成長の成功要因のひとつとされているのが、経営学者のジェームス・C・アベグレンによって提唱された、日本的経営の三種の神器と呼ばれる「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」です。これらはそれぞれが相互関係にあるものですが、なかでも「終身雇用」は最も特徴的なものであるとされています。2004年に発売された新訳版*1 では、提唱から50年近くたっても、日本企業における雇用関係は終身の考えがベースになっており、その終身雇用関係における報酬や昇進などの制度は年功に基づいているとしています。
*1 『新・日本の経営』(ジェームス・C・アベグレン 著 日本経済新聞社刊)