余談ながら鴻巣市は目下、「こうのす川幅うどん」推しの真っ最中であり、免許をとった人が幅8センチといわれるビロビロの「川幅うどん」(市域を流れる荒川の川幅がいちばん長いことにちなむ)を食した場合、そっちがソウルフードと化してしまう可能性も捨てきれない。

 しかし、「シークレット山田」でひそかに山田うどんを食す快感はたまらないものがある。だってね、店内のお客さんの誰も気づいていないんだよ。教えてあげたくなる。が、わかる人だけわかってればいいので、教えてはあげない。鴻巣免許センターは埼玉人の魂の深部にあるのかもしれないなぁ。バス停近くに「十万石まんじゅう」鴻巣店もあるしな。詩的に表現すれば「埼玉のロードサイドが始まる場所」が鴻巣免許センターなのだ。

うどんを作るエネルギーはうどんから生まれる

 入間市にあるセントラルキッチン(※工場)の社員食堂には「たぬき」「冷やしたぬき」の二種類しかメニューが選べない「山田内山田うどん」があった。山田うどんの従業員は山田うどんを無料で食べてそのエネルギーで山田うどんを作っていたのだ。山田うどんで山田うどんを作る、いわば山田うどん永久機関と呼ぶべき循環だ。あるいは正の山田フィードバックと呼んでもいい。

 ここで検討したいのは一般にはオープンにされていない山田、「クローズド山田」「ゲーテッド山田」の問題である。

 山田を愛する気持ちがどれほど深いとしても一般のお客さんが「山田内山田」に潜入できる可能性はゼロだ。唯一あるとしたら山田で働くしかない。これは熱狂的なディズニー愛好家が東京ディズニーランドで働くケース(実はバイトも含めて、かなり多いといわれる)に似ている。いちばんレアなデイズニー体験のために「中の人」として就労するのだ。だって「中の人」にならなければ例えばミッキーマウスの公式の着ぐるみを着て、ミッキーそのものになる機会は永遠に訪れない。

 セントラルキッチン内の社員食堂はなかなかのフロア面積だった。広い厨房があって、食堂スペースはテーブル席と畳敷きの小あがりに分かれる。喫煙所があってテレビがついてて、従業員の休憩スペースの役割も果たしている。画期的だったのはテーブルの備品が「カントリー・ラーメン」(山田うどんが展開していたロ-ドサイド型ラ-メン専門店)のデッドストックだったりしたことだ。単にアリモノを使ってるだけなんだろうが、産業考古学的には非常に価値ある埋蔵品だといえる。

 で、取材していてわかったのは、所沢の山田本社ビルの内部にも社員食堂が存在する事実だった。いやあ、これは驚きましたよ。山田食品産業の本社ビルは、山田うどん本店の隣りですよ。正面玄関出て10秒で山田うどん本店です。最寄りもいいとこ。最寄りすぎてこっちまでてれますね、あれは。まぁ、だからそんなに山田うどんが食べたければ本店がそこにあるだろうと僕ら素人は考える。が、店舗はあくまでお客さんのものだ。昼どき、もしも山田の社員・従業員で本店が満席になっちゃってたら世間はどう思いますか。

 本社ビル内の食堂は小さなスペースだった。ここがいいのはね、セルフうどんなんだ。うどん玉を出して自分でゆでて、湯切りしてどんぶりに盛る。旨いんですよ、自分で作った山田うどん。ここはもう、社員が皆、自分のマグカップなんかを置いてあるプライペートスペースだ。ここへお弁当持ち込んで、うどんとセットにして食べたいなぁ。自カセットメニューですよ。そんなこと社員にしかできない。あ、社員じゃないケースだと山田裕朗社長もあり得るな。僕はこれは社長の飾らない人柄のたまものだと思うんだけど、「社員食堂で社長と並んで湯切りする」、実にほのぼのとした光景が当たり前に展開されているんだな。