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埼玉発祥の関東ローカルチェーン「山田うどん」は、埼玉県民で知らない人はいないほど圧倒的な知名度を誇る、まさに地方豪族とでもいうべき飲食店だ。しかし、それだけ身近にもかかわらず、実は県民すら知らない「特殊山田」が存在する。
チェーン店だが一律じゃない
「いつもの!」に答える山田
山田うどんの本質はその多様性にある。社団法人日本フランチャイズチェーン協会(JFA)の立ち上げに関わり、関東に大規模展開するチェーン店でありながら、例えば接客マニュアルの類を持たないことは相当なことじゃないだろうか。マニュアル対応でない以上、店舗ごとのカラーや、パート女性の個人スキルで雰囲気が千変万化するんだなぁ。
これは客の側からいうと、ぬくもりのある人間的な対応をしてくれる(僕はたまにマニュアル対応のハンバーガーチェーンのカウンターで、自分は自販機を相手にしてるんだろうかと思うことがある)という意味になる。僕らはカウンターで「いつもの!」と注文する運転手さんを見かけて、山田うどんすげぇと感心するが、別に本社がそういう指導をしているわけでなく、それはパートさんの柔軟性なのだ。あるいは「青葉町店(現在は閉店)の店員さんはうどんを届けるとき、箸箱を開けてくれる」といった声を聞くが、それはパートさんの人柄なのだ。山田うどんは店内のディスプレーから接客応対まで、各店舗の自由裁量にゆだねられている部分が大きい。
つまり、「同じ山田はひとつとしてない」のだ。僕ら山田を愛する者は、未知の店舗を訪ね歩き、その微細なディテールの違いを楽しむ観察者でもあるだろう。
けれども、微細とは言い難い、強烈な違いとしか言いようのないものを見せてくれる「特殊山田」が存在するのだ。
「特殊山田」は愛好家のロマンである。特定の時間・場所でだけ、山田の顔を見せる山田がある。関係者以外には秘せられたシークレット山田も、あるいは知られざる山田も発見されている。それからミッシングリンクのように進化の歯車から取り残され、何故か「駅そば」的な業態を続けている山田もある。
埼玉唯一の免許センターにある隠れ山田
埼玉県民にとって「鴻巣」といえば運転免許センターである。驚くべきことにあれだけの広大な県域でありながら免許センターはたったひとつだ。免許取得や(ゴールド免許でない場合の)書き換えのタイミング等で、県民は必ず鴻巣免許センターのお世話になっている。遠い人は片道二時間以上かけてはるばるやって来ると聞く。
で、これはスクープだと思うのだが、鴻巣免許センター内のレストラン「けやき」には山田うどんが入っているのだ。これは山田うどんHPの店舗一覧にも出てこない「シークレット山田」だ。読者よ、ここは必ず行こう。
店のどこを探しても「山田のやの字」も「かかしマーク」も見つからない。が、ショーウインドウを見て愛好家は息をのむ。山田うどんだ。かき揚げ丼、かつ丼、セットメニューもばっちり揃う。それだけでなく、何とパンチ(※もつ煮込み)が「パンチ」の名で供されている。いきなり、免許センターで「パンチ」と言い張るか。いや、驚いてはいけない。「パンチ」単品、「パンチセット」のほかに、サッカー場の特殊山田のみの限定メニューであると思われた「パンチ丼」がディスプレーされてるじゃないか。
ドラマ版の『めしばな刑事タチバナ』(テレビ東京)で、ワハハ本舗の梅垣義明さん演じる「竹原」(なぜか原作と違っておねえキャラだった)の情報でも、パンチ丼は等々力競技場の限定であった。これはどういうことかと考えたのだが、「ドラクエでいうところの隠しダンジョン」じゃないだろうか。鴻巣免許センターのレストラン「けやき」はあくまで山田うどんのラインアップには入ってないのだ。ヒミツの山田。山田であって山田でない山田。だから、僕らは「山田ではない店」で「山田ではフツー出されていないパンチ丼」を食べるという、奇跡のような体験をする。
学校給食のソフトめん納入で知られた山田うどんが、二一世紀を迎え、今度は鴻巣免許センターの食堂を押さえる戦略に打って出た。いやぁ、マジでいいとこ押さえるなぁと感心しきりである。だって鴻巣免許センターだったら「埼玉性」と「モータリゼーション」の両方手中にできますよ。山田うどんにとって最重要のポイントでしょう。
卵からかえったヒヨコが最初に見た動くものを親と認識するという「刷り込み」のイメージに近い。かつては学校給食で「山田アイデンティティー」が刷り込まれたのかもしれないが、21世紀になって免許とりたてのヒヨッコドライバー(?)がターゲットとしてロックオンされたと考えたらどうだろう。最初に見たうどんがソウルフードだと認識されるかもしれない。免許をとった人がうまいことセンター内のレストランでうどんを食べてくれればの話だけどねぇ。







