このような洞窟環境には、眼が退化あるいは縮小していたり、体の色が真っ白だったり、脚がとても細長くなるなどの「奇妙な」特徴をもった動物が生息していることが知られています。私は、これらの洞窟性の動物のなかでも、水域に生息するエビ・カニ類に特に関心があります。鹿児島県(奄美群島以南)や沖縄県の島々をめぐり、これまでに150か所ほどの洞窟地下水域や井戸などを調査して、エビ・カニ類を主とする動物相を解明してきました。
洞窟地下水域での動物調査を行うためには、まず、洞窟を探す必要があります。今ではGPS(全地球測位システム)を利用して簡単に位置を記録することができますが、昔の記録には洞窟の詳細な位置情報が存在しないことが多く、洞窟を探すこと自体が一苦労なのです。地元の方々に尋ねつつ場所を探すのはもちろんですが、洞口(洞窟の入り口)が木々におおい尽くされていてよくわからない場合も多く、懸命に「やぶこぎ(草木を刈りながら道なき道を突き進む)」する必要もありました。
また、水生動物であるエビ・カニ類を調査研究するには、「水(地下水)」のある洞窟を探す必要がありました。洞窟内の水域は通常、最深部にあることが多いため、とにかく「水」を求めて奥深くまで進み続けねばなりません。洞内には人一人がやっと通過できるような場所もあり、私が洞窟研究を始めたころはとても太っていたため(体重が100㎏ありました……今は60数㎏になりました!)、恥ずかしながら奥に進めない洞窟もありました。
やっとの思いで洞窟地下水域にたどり着いても、海の潮汐(潮の満ち引き)に影響されて水位が激しく変動する場所もあるため、訪れる時間帯を間違えると、ほとんど水がないこともあります(特定の時期や大雨のあとにしか水がない場所もあります)。さらに、地下水域に生息する動物の生態に周期性があって、たとえば、繁殖期にしか採集できない場合もあります。
こうしてそれぞれの洞窟を探検して調査対象となる洞窟をしぼりこみ、何度も同じ洞窟や井戸に通うことで、少しずつデータと経験を積み重ねました。入洞経験を重ねることで、せまく、暗い場所にも慣れることができましたし、洞窟環境での危険性や安全対策についての理解も進みました。
洞窟内で素潜りして環境調査
ウリガーテナガエビを発見
さて、洞窟地下水域での「新種」の発見は、意外にも研究を始めてすぐに訪れました。沖縄県宮古島での調査を開始して半年ほどが過ぎた2004年11月、同島の洞窟地下水域にしかけていたトラップ(餌えさを入れた罠)から、それまで見たことのないテナガエビ類(テナガエビ属の1種)を発見したのです。