深海や山奥、そして身近な足元まで、地球上にはまだまだ未知の生物が存在している。そんな新種生物の発見はどのようにして行われるのだろうか。今回は洞窟で見つかった新種生物の発見の様子を紹介する。本稿は、『新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』(島野智之・脇司編著、岩波ジュニア新書)の第8章「探検する生物学・海底洞窟で『新種』に出会う」(藤田喜久)の一部を抜粋・編集したものです。
草木を刈りながら森を進む
研究の一歩は洞窟探しから
海底をおおう奇妙で美しいサンゴと、それを取り巻くように色とりどりの魚たちが乱舞する、美しくにぎやかな命あふれるサンゴ礁の海。そのサンゴ礁の片隅に、外海から隔離された、せまく、沈黙した暗闇の世界があります。
目に見えるのは、手元に持った水中ライトが照らす範囲だけ。命をささえるのは、タンクにつめられレギュレーターを通じて吸うことができる限られた空気だけ。潜水者の吸気音と排気音だけが、生きていることを実感できる場所。
──「海底洞窟」。この言葉を聞くだけで何かドキドキワクワクし、身体の奥底にある探検心が刺激されませんか? 探検のその先には、きっとすばらしい「宝物」=「誰も見たことのない生物」がいるはずで、研究者であれば誰もがそれを自らの手でつかむことを夢見ると思います。
私は、日本の琉球列島の島々や、インド洋の絶海の孤島・クリスマス島などで、数多くの洞窟や海底洞窟を「探検」し、甲殻類を主として、数多くの「新種」を採集してきました。そのなかから、いくつかの発見の話題を紹介したいと思います。
「洞窟(洞穴)」とは、人が入れる程度の大きさになった穴のことを指します。洞窟のでき方にはいろいろありますが、石灰岩が水で溶かされてできたものを石灰洞と呼びます。石灰岩とは炭酸カルシウム(学校の黒板のそばにあるチョークはこれでできています)でできた鉱物で、サンゴなどの石灰質の骨格をもつ生物たちによってつくられます。石灰岩は水(酸性度の高い水)に溶けやすい性質があるため、気が遠くなるような長い年月の間に雨や地下水流にさらされることで、くぼみや穴ができて、そのうち人が入れる規模になるのです。
九州の鹿児島県から台湾の間の島々で構成される琉球列島には、石灰岩でできた島や地域があり、数多くの洞窟の存在が知られています。特に、洞窟内に石筍(洞窟の床からタケノコのように伸びている洞窟生成物)や、つらら石(天井からたれ下がる洞窟生成物)が発達した「鍾乳洞」は、見た目にもとても美しいため、観光資源としても利用されています。また、洞窟内には、地下河川やプールのような水域が存在する場合もあります。