企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」。自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本稿では、本書より一部を抜粋・編集して、「メンタリング・マネジメント」とは何かについて紹介していく。(構成:長沼良和)
メンターとはどんな存在か
ビジネス書を紐解くと、時折登場する「メンター」という言葉。指導者・助言者・相談者という意味でよく使用されているものだ。
近年のビジネスシーンでは、個人の能力を最大限に発揮させるために、精神面も含めた支援の重要性が強く認識されるようになった。メンターが求められる役割はより大きくなったといえるかもしれない。
真のメンターの役割
メンターの特徴は、相手が本来持っている潜在的な可能性を最大限に引き出すこと。
教え、導くという指導者としての役割とは少し意味合いが異なる。
全ての人は生まれながらにして無限の可能性を持っているにもかかわらず、それを出し切っていない。それを引き出すのがメンターの役割である。
たとえるならば、イソップ物語の「北風と太陽」に登場する太陽のように、説得することもなく、強制することもなく、相手の自発性を引き出す存在。それがメンターである。
メンターは自分で名乗るものではない
メンターという言葉は、肩書きや役職、資格、職業ではなく、自然と呼ばれる「称号」である。
人に教える機会が多かったり、書籍を出版したりしたら、自分では先生と思っていないけれど自然と先生と呼ばれるのと同じだ。
名刺には「先生」という肩書きを入れることはないだろう。
自分がメンターであるかどうかは、相手が決めるものということだ。
本当のメンターは究極のリーダーのあり方であり、常に目指すもの。実際にメンターと呼ばれている人は自分ではまだまだメンターではないと思っているものなのだ。
子どもたちがいうことを聞かない本当の理由
相手に何かを伝えようとする時、「何を話すか」よりも、相手から「自分がどう思われているか」の方が重要だ。
正しいことを言ったからといって、きちんと相手に伝わるとは限らない。
学校の先生たちは、どうすれば子どもたちがいうことを聞くかについて頭を悩ませているケースが多い。
それに対して、本書の著者である福島氏は、教師が集まるある会合で、「どうして子どもたちはいうことを聞かないのか」と質問されたことがあったという。
そのことに対する回答が秀逸だ。
つまり、先生のようになりたくないから言うことを聞かない、ということだ。
確かに、筆者も子どもの頃を振り返ってみると、「この先生みたいにはなりたくないな」と思った先生の言うことは聞きたくないと思ったものである。
尊敬できない人に対して、いくら正しいことを言われても聞く耳を持てないのは、大人も子どもも同じということだ。
尊敬されることの力
逆に、別の機会で福島氏がとある大学に行った時、学生から尊敬されている教授と出会ったという。
キャンパス内の学生食堂で昼食を摂っていると、学生が集まって来てその教授の話を聞きたがるという。中にはメモを取っている者もいたそうだ。
これが尊敬される力である。相手がどれだけこちらの言うことを聞いてくれるかというのは、どれだけ自分が相手から尊敬されているかということにかかっているのだ。