企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本稿では、本書より一部を抜粋・編集して、「メンタリング・マネジメント」とは何かについて紹介していく。(構成:長沼良和)

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

人材育成について深く考えたことはあるか?

「人材はどうすれば育成できるのか」

 部下を持つと、誰もが直面する問題である。

 本書の著者である福島正伸氏は、最初はまったく自分の会社の部下が動いてくれずに苦労したという。

 さまざまなリーダーシップに関することを学んで、自分の会社で試してみた。ところが、まったくうまくいかなかったのである。

その結果はいつも私の想像とはまったく違ったものでした。私とスタッフの間との溝が、どんどん深まっていくだけだったのです。(P.20)

 社員は仕事をするふりをするようになり、生産性はさらに落ちていく。どうしたら良いかわからない日々が続いたという。

社長と社員の認識の違い

 困り切った挙句、このことを専務に尋ねると、「みんなは『社長に操られているみたいだ』と言っていた」と教えてくれた。

「毎月給料を渡しているのだから喜んでくれているだろう」と思っていたのは、社長である自分だけだったことに福島氏は気づいてしまった。

 さらに、「わずかな給与で働いて、社長を立てているのだからもっと感謝してほしい」と社員が言っているという衝撃的なことまで専務から伝え聞いてしまった。

 とかく社長は社員に対して「毎月給料をあげている」という上から目線になりがちである。感謝されてしかるべきだと思っているかもしれない。

 しかし、社員の視点から見れば、「働いてあげているのだから給料をもらうのは当然」と考えているのだ。

社員に対して足りなかったこと

 このように専務からガツンと言われたことが、福島氏にとって大きな気づきになった。

私は、リーダーである前に、一人の人間として「感謝する気持ち」を忘れていたのです。(P.21)

 彼は社員に対して感謝が足りないと自覚してから、身の回りには感謝すべきことがたくさん見えてきたという。

「朝、スタッフが会社に来てくれたら感謝」「電話を取ってくれたら感謝」「コピーをとってくれたら感謝」等々。

 毎日スタッフに感謝できるようになってきた頃、不満がなくなってすべてがありがたいと思えるようになった。

そうしているうちに、とうとう一人のスタッフからこんなことを言われました。
「社長、今日もみんなのためにがんばってくださって、ありがとうございます」
この言葉は、涙とともに、一生涯忘れられない言葉となりました。(P.22)

 社内だけでなく自分の身の回りは感謝で溢れていたのである。そこに気づいていなかったのだ。

人材育成に対する勘違い

 これまで人材育成のためのプログラムというのは、多種多様に開発されてきたが、良い成果は出ていない。

 その理由は、誤った前提条件があるからだ。

その前提条件とは、先生と生徒、あるいは上司と部下という関係において、「先生は人間的に成熟しているが、生徒は人間的に未熟である」、あるいは、「上司は正しいが、部下は間違っている」ということです。(P.22-23)

 人材育成は、テクニックでできるものではない。部下は上司がワザを使って人材育成しようとすることを一瞬で見破るものである。

 では、どうすれば人材育成できるのだろうか?

もっとも優れた人材育成法

 人は自分の周りにいる人の生き方にもっとも影響されるという。

人が最も影響を受けるのは、テクニックではなく、自分のまわりの他人の生き方です。人は人によってしか、育てることはできません(P.23)

 振り返ってみると、自分の成長にもっとも影響を与えたのは、両親である。「親の背中を見て育つ」は間違いない事実だ。

 無理にテクニックを駆使して育てようなんて考えるのは、おこがましい話である。

 人が育たない根本的な原因は「育てようとすること」だと福島氏は断言する。

人を育てるのは自分を育てること

 他人は自分を映す鏡である。自分を成長させることでしか相手を成長させられないのである。

 つまり、人材育成のためには自分が見本になることだけを意識するべき。

 本当に大切なことは、相手の前でどう生きるかということ。

「人は自分の力で成長しようとしない限り、成長することはできない」(P.24)

 この根底にあるのが本書のテーマである「メンタリング・マネジメント」である。