ANAホールディングスが10月、航空貨物輸送を手掛ける日本貨物航空を完全子会社化する。同社の全株式を海運最大手の日本郵船から取得。新型コロナ禍で好調だった貨物事業を強化する。一方、ライバルの日本航空も今年度末から2010年の経営破綻以来、“禁じ手”としてきた貨物機を再導入する。両社は貨物事業でしのぎを削ることになるが、戦略は対極だ。空の貨物対決を制するのはどちらか。(ダイヤモンド編集部 梅野 悠)
ANAが日本貨物航空を買収
貨物郵便収入はコロナ禍前の2.5倍
ANAホールディングス(HD)が10月1日付で、海運最大手の日本郵船から航空貨物輸送を手掛ける子会社、日本貨物航空(NCA)の全株式を取得すると発表した。ANAHDの株式を日本郵船に譲渡する「株式交換」方式の買収で、買収額は100億円超となる見込み。
新型コロナ禍の直撃で航空各社は旅客収入が落ち込んだが、航空貨物事業は絶好調だった。ANAの2023年3月期の貨物郵便収入は3413億円で、コロナ禍前の2.5倍に達した。業績低迷が続いてきたNCAもコロナ禍が追い風となり、2022年3月期まで2期連続で過去最高益をたたき出した。
コロナ禍が航空貨物に“追い風”となったのは、航空貨物輸送の需給が逼迫(ひっぱく)し、運賃が高騰したためだ。国際線の運航が減り、旅客機の貨物室(ベリー)の供給量が減ったほか、海運のコンテナ輸送網の混乱で海上輸送の需要の一部が航空輸送に振り替わった。
ANAはNCAの買収で専用機が増え、貨物の供給量が増やせるほか、NCAが強みとする欧米向けの輸送ネットワークを強化する。
貨物事業を巡っては、ライバルの日本航空(JAL)も動きを見せた。JALは10年の経営破綻以来、“禁じ手”としてきた貨物事業に再参入する。自社で保有するボーイングの中型機B767のうち、3機を貨物機に改修するなどして、計6機を23年度末ごろから順次導入する計画だ。
くしくも、ライバル同士が今期から貨物事業のテコ入れに乗り出す格好となったが、実は両社の貨物戦略は対極ともいえる。次ページでは、今後の成長のカギを握る両社の貨物戦略を比較し、勝敗の行方を占う。