人的資本をマネタイズする

 経済学では、金融資本(フィナンシャル・キャピタル)を金融市場に投資して収益を得るのと同様に、わたしたちは人的資本(ヒューマン・キャピタル)を労働市場に投資して給与や報酬を得ていると考える―という話はこれまで何度もしてきた。ここでは重要なことだけを確認しておこう。

 ひとはさまざまな能力をもっているが、人的資本とは、そのなかで「マネタイズ(収益化)可能なもの」だけをいう。学生時代に野球やサッカーをやっていて会社の同好会で活躍しているとか、アイドルの物真似がうまくて宴会の人気者だというひともいるだろうが、こうした能力はマネタイズできていないので人的資本には含まれない。それに対して、芸能人に扮した動画をYouTubeにアップして、そこから収益を得ているなら立派な人的資本だ。

 なぜこんなわかり切ったことをいちいち書くかというと、「好きなこと、得意なこと」をマネタイズできるかどうかが、現代社会ではますます重要になっているからだ。芸能人やスポーツ選手でも、医師や弁護士などの専門職でも、あるいは起業家や大手企業の経営者・幹部であっても、成功者というのは「自分の能力を効率的にマネタイズしているひと」と定義できる。

 もちろん、お金にならなくても有意義な仕事というのは世の中にたくさんある。しかしわたしたちが生きている市場経済では、成功は最終的にはマネーによって評価される。リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドが成功者なのは、その華麗なプレイによってサッカーファンを魅了したからであると同時に、それによって巨額の報酬を得ているからだ。

 ここから、次の一般則が導き出せる。

成功にとってもっとも重要なのは、自分がもつアドバンテージをどのようにマネタイズするかだ。

※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。