「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

超予測者は「永遠のベータ版」

 古代ギリシア人は、「キツネがたくさんのことを知っているのに対し、ハリネズミはたったひとつ重要なことを知っている」と述べた。ここからテトロックは、キツネ的な考え方(予測が上手)と、ハリネズミ的な考え方(予測が下手)を説明している。

未来の予測が上手なキツネは、思考サイクルが大好きな「永遠のベータ版」イラスト :Torico / PIXTA(ピクスタ)

 ハリネズミとは、大きな考えを信じているひとたちだ。「あたかも自然界の法則であるかのように機能し、社会のすべての相互交流を実質的に支える基本原則がある」と考えている。カール・マルクスと階級闘争、フロイトと無意識が例に挙げられているが、昨今のリフレ派(物価が上昇すれば日本経済は復活する)やMMT(現代貨幣理論。主権通貨は無制限に財政負担を拡大できるとする)なども同類だろう。ハリネズミの特徴は、以下のようにまとめられる。

【予測が下手なハリネズミの考え方】
専門的:1つか2つの大きな問題を専門とすることが多い。分野外からの意見は疑う。
硬直的:全部をひっくるめたアプローチにこだわる。新しいデータは元のモデルを補強するために使う。
頑固:間違いは運が悪かったと考えるか、特別な環境のせいにする。優れたモデルにも、ついてない日はある。
秩序を求める:ノイズのなかからシグナルを発見できれば、世界を支配するきわめて単純な原則を見つけることができると思っている。
自信がある:曖昧な予測をすることはなく、意見を変えることをよしとしない。
イデオロギー的:より壮大な理論や闘争により、日々の多くの問題が解決されると思っている。

 それに対してキツネはこれといった原則をもたない生き物で、たくさんの小さな考えを信じており、問題に向けてさまざまなアプローチを試みる。微妙な差異や不確実性、複雑性、異なる意見にも寛容だ。キツネの特徴は、次のようにまとめられる。

【予測が上手なキツネの考え方】
総合的:もともとの政治的立場にとらわれることなく、さまざまな分野に取り組む。
柔軟:最初のアプローチが機能するかどうかわからなければ、新しい方法を見つけたり、同時に複数の方法を試したりする。
自己批判的:(うれしくはないが)すすんで自分の予測の間違いを認め、非難を受け入れる。
複雑さを受け入れる:世界を複雑なものとして見ており、多くの基本的な問題は解決不能、あるいは本質的に予測不能だと思っている。
用心深い:確率的な言葉で予測を表現し、断定を避ける。
経験的:理論よりも経験を重視する。

 超予測者は「永遠のベータ版」で、「試す、失敗する、分析する、修正する、また試す」という思考サイクルが大好きなのだ。

 自信たっぷりに断定するハリネズミは短期的には大きな評判を獲得し、メディアにもよく登場する。それに対してキツネは地味で、ニュース番組のコメンテーターになったり、本を何十万部も売るようなことはないかもしれないが、未来を正しく予測することで長期的には大きな利益を獲得するのだ。

※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。