「子どもには、少しでも体によいものを食べさせたい!」ですよね。
でも、ごはんは毎日のこと。なるべくシンプルで簡単に済ませたいものです。
この連載では、『医師が教える 子どもの食事 50の基本』の著者で、赤坂ファミリークリニックの院長であり、東京大学医学部附属病院の小児科医でもある伊藤明子先生が、最新の医学データをもとに「子どもが食べるべきもの、避けるべきもの」をご紹介します。
本書の読者からは、
「子を持つ親として、食事の大切さがよくわかった」
「本を読む習慣がない私でも読みやすく、頭に入りやすかった」
「何度も読み返したい本!」

といった声がたくさん届いています。不確かなネット情報ではなく、医学データと膨大な臨床経験によってわかった本当に子どもの体と脳によい食事。毎日の食卓にすぐに取り入れられるヒントが満載です。
※食物アレルギーのある方は必ず医師に相談してください。

【小児科医が教える】オーガニック食品を選ぶ理由とは? 世界とのズレを感じる「日本の親の回答」Photo: Adobe Stock

日本の農薬って、安全なの?

 農薬の規制は各国で異なります。
 日本では、除草剤、殺虫剤などの農薬の安全性について、農林水産省、厚生労働省、環境省、内閣府など、各機関が連携して毒性試験・安全性試験が行われていて、ADI(摂取しても安全な量)が定められています。

 見た目も味もよい商品を作るのは、自然環境に左右される農作物の場合、かんたんなことではありません。「農薬の使用ゼロ」だけが正解というわけではないでしょう。

 日本で一般に販売されている食材は、決められた基準を守っています。ですから残留農薬レベルから見て「農薬を使った食材は人体に有害」ということはありません

 しかし、欧米では使われない除草剤、殺虫剤が使われていることも事実です。たとえば日本のいちご栽培には、欧州では使われないネオニコチノイド系農薬(殺虫剤)が使用されていることが話題になりました。

 また海外では次のようなデータもあります。
 農薬が使われている地域の近くで生まれた子どもたちと、そうではない地域の子どもたちを比較すると、前者の地域のほうが自閉症が多かったという研究が、米国のカリフォルニア大学デービス校から出ています[*103]。

 米国で「農薬が要因でがんになった」とバイオ化学メーカーのモンサント社を訴えた裁判で原告が勝訴したニュースは、日本でも注目されました[*104]。
 輸入品の規制が緩和され、輸入小麦や大豆、畜産肉に使用される抗生物質などの薬剤も懸念されています。

 しかし現在各国で、多様な減農薬、無農薬の方策が革新的に展開されつつあるのも確かです。それらの活動を応援しつつ、一般的に流通している野菜も、神経質になりすぎずに取り入れるのがよいと考えます。

日本の添加物って、安全なの?

 添加物の安全性についても、国が定めた規制があります。国際比較をすると、日本よりも欧米のほうが厳しいですね。
 一方、食品に栄養素を加える栄養強化(たとえばシリアルにビタミンDをプラスしたり、ドリンクにカルシウムをプラスしたりすること)としての添加物は、日本よりも海外諸国のほうが多く使用されています。ですから食品によっては、日本のほうが栄養素の不足・欠乏を改善しにくい側面もあります。

日本の有機食品に対する考え方は進んでる?

「有機食品を選ぶ理由は何ですか?」という質問に対して、欧州では
「地球のために選ぶ」
 という回答が1位です[*105]。

 2015年にイタリアのミラノで開催された万国博覧会は「地球の食と栄養」がテーマでした。そこで最も注目されたのが、有機栽培(循環型農業)を広めることが地球の健康を維持できることにつながり、地球の飢餓対策にも効果を発揮すると訴えていた、国連パビリオンでした。

 一方日本では、2015年に私が日本公衆衛生学会で「有機食品に対する日本の母親の意識調査」という研究を発表しています。

「有機食品を買う理由」として日本人が回答(複数回答)したのは、

「安全だから 95%
「味がよいから 25%
「地球にやさしいから 10%

 でした[*105]。

 日本には「有機が地球のためである」という情報もまだ十分に届いていないようです。

 日本人は「食」に対する意識が高いと思っている人は多いかもしれません。しかし、世界的に見ると決してそう言い切れないのが現状です。
 まずは人間の口に入る食品が、どこで、どうやって、だれが作っているのかという意識をもつことから始めてみませんか?

 このほかにも『医師が教える 子どもの食事 50の基本』では、子どもの脳と体に最高の食べ方、最悪の食べ方をわかりやすく紹介しています。

(本原稿は伊藤明子著『医師が教える 子どもの食事 50の基本』から一部抜粋・編集したものです)

*103 Shelton JF, et al. Neurodevelopmental Disorders and Prenatal Residential Proximity to Agricultural Pesticides: The CHARGE Study. Environ Health Perspect. 2014 Oct; 122(10):1103-1109.
*104 https://www.forbes.com/advisor/legal/product-liability/roundup-lawsuit-update/
(2022年11月20日)
*105 伊藤明子. 有機食品に対する日本の母親の意識調査:インターネット調査.
第74回日本公衆衛生学会総会. 2015 Nov.