歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』
(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】<br />小5の少年が『真田太平記』全巻セットをほしがった歴史的理由Photo: Adobe Stock

関西人の徳川家康への思い

【前回】からの続き 関西人は、今なお徳川家康へのうっすらとした嫌悪感を共有しています。

特に京都では日本の首都を向こう(関東)に持っていった人、というマイナスイメージが根強く残っているのです。

私の祖父母の世代くらいまでは、日常会話の中で「家康のせいでこっちの景気が悪くなった」「太閤さん(豊臣秀吉)のほうがよかったな」と口にする光景が珍しくありませんでした。

真田幸村への思い

関ヶ原の戦いの東軍・西軍の区分でいえば、完全な西軍びいき

多くの人が豊臣秀吉にシンパシーを抱いていて、豊臣家を助けた真田幸村はヒーローみたいな扱いをされていました。

祖父たちが「真田幸村はすごかったな」「あれこそ武士の鑑かがみ」みたいに会話をしていた内容が、自然と私の頭の中にすり込まれていたのでしょう。

夏休みの35日で全16巻を読破

だからこそ、古本屋の軒先で「真田」という文字を目にしたとき、直感的に面白そうだと思った。そんなことだろうと、我が事ながら推測します。

結局、夏休みの終わりを待たず、たしか35日で『真田太平記』の全16巻を読破。

ページをめくっていくうちに、歴史に対する先入観が根底から覆くつがえされたことを鮮明に覚えています。【次回に続く】

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。