デンソーの小型垂直多関節ロボット。その作業制度とスピードには定評がある。 |
愛知県のデンソー本社のショールーム。ここで誰もが足を止め、驚き、感嘆する展示がある。
それは産業用小型ロボットの実演。ボタンを押すと、多関節のアームが容器の穴に差し込んだシャープペンシルの芯を素早く引き抜き回転、反対側にある穴の開いた容器に差し入れる。その間、数秒もかからない。当然、まごついたり、芯が折れることもない。
この作業精度の高さと迅速さが受けてか、デンソーの産業用ロボット事業は急成長している。
産業用小型ロボットの生産台数は前年比で約20%増、11月上旬で累計5万台に達した。同社のロボットは1970年4月に実用機第1号を開発・生産し、累計1万台までに約27年を要したが、累計5万台達成は、2006年4月末時点(累計4万台)からわずか1年半という速さだ。
これほどの成長は文字どおり「うれしい誤算」(デンソー関係者)である。
そもそもデンソーの小型ロボットは、自社の自動車部品の組み立て工程用に開発・実用化したものを外販したものだ。2001年10月からはロボットを含めた産業機器事業部門を子会社に分離・独立した。来年には自社工場で実用している外観高速検査ロボットの外販も始める。
この外観高速検査ロボットは、アーム先端に装着したカメラで、多方向から自動車や機械などの製品外観を高速撮影して検査するもので、経済産業省が創設した「『今年のロボット』大賞2006」の最優秀賞(産業用ロボット部門)も受賞した。ロボット技術に関しては「トヨタと同等以上」と、親会社トヨタ自動車の技術者に言わしめるほどだ。
さて、ここでライバル心をかき立てられているのが、意外にもホンダや三菱重工業など産業用以外で先行しているロボットメーカーであるという。
周知のとおり、トヨタは2001年以降、本格的に二足歩行ロボットなどの開発に着手している。「産業用とはいえ、デンソーの高度な制御技術がトヨタの技術と融合すれば、大きな脅威になる」(業界関係者)からだ。
そんな声を知ってか、知らずか、デンソーは、2009年3月には本社内にある産業用ロボット事業の開発、設計、管理部門のすべてを、生産部門のあるデンソー阿久比製作所内に集約し、製品開発を効率化する方針も決めている。当面、同社のロボット事業への意欲は衰えそうもない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣)