歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』
(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

直木賞作家が拝み倒して連れて行ってもらった歴史小説の舞台Photo: Adobe Stock

歴史小説を読み漁る日々

【前回】からの続き 中高生の頃は、歴史以外の本を読んだ記憶がほとんどありません。

直木賞を受賞した作家の作品を網羅するだけでなく、一度だけ直木賞候補になった作品や、世間的には無名の作家の作品まで、歴史小説に分類される作品はことごとく読み漁りました。

読めば読むほど読書のスピードは速くなっていきます。面白い本がもたらす没入感にはすさまじいものがあり、小説を読んでいる間は時が経つのも忘れていました。

家族旅行で池波正太郎をたどる

本を読むだけでなく、各地の城跡や史跡をめぐる旅を始めたのも中高生の頃です。1998年、長野県上田市に「池波正太郎真田太平記館」が開館しました。

池波正太郎と『真田太平記』の魅力を伝える施設であり、池波先生の取材ノートや遺愛品などが展示されています。

その年、「今度の家族旅行、どこがいい?」と父に聞かれた私は、「上田に行きたい」と即答。京都の自宅から上田市まで、クルマで連れて行ってもらいました。

拝み倒して関ケ原へ

記念館の展示はもとより、小説で読んでいた上田城を目の当たりにして大興奮だったのは、懐かしい思い出です。

2000年には関ヶ原合戦400年の記念イベントが岐阜県で行われ、このときも親を拝み倒して、連れて行ってもらいました。

「関ヶ原500年記念があっても、もう俺は生きてへん。400年の記念は今しか行けない。だから連れて行ってくれ!

そのとき手に入れた冊子パンフレットは、今も大切に書斎に残してあります。【次回へ続く】

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。