歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
見知らぬおっちゃんと
歴史小説でつながる
【前回】からの続き かなり異様な光景だったはずですが、「兄ちゃん、それおもろいやろ」「こっから、もうちょっとでおもろなるぞ」などと声をかけてくるおっちゃんが2、3人はいたものです。
関西人特有のフランクさもありますが、イカツイ高校生に声をかける抵抗感より、本の面白さを共有したいという感情のほうが強かったのでしょう。
偶然にも見かけた
歴史小説を読む高校生に
令和の今、電車に乗ると乗客のほとんどの人がスマホとにらめっこをしています。
ところが先日、私が電車に乗ったとき、偶然にも『真田太平記』を読んでいる男子高校生を見つけました。
昔の自分を思い出して
思わず声をかける
思わず、あのときのおっちゃんのように声をかけてしまいました。「ちょっとごめん、君、『真田太平記』読んでんねんな!」
顔を上げた少年は、突然の事態におどおどしながら答えます。「は、はい……」
彼の困惑などお構いなしに「この先、ちょっと面白くなるから楽しみにしとけよ!」と畳みかけたら、「は、はい。わかりました」と答えていました。
大人になった今では、かつて私に声をかけてきたおっちゃんたちの気持ちがよくわかります。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。