定年前後の決断で、人生の手取りは2000万円以上変わる!マネージャーナリストでもある税理士の板倉京氏が著し、「わかりやすい」「本当に得をした!」と大人気になった書籍が、2024年の制度改正に合わせ改訂&パワーアップ!「知らないと大損する!定年前後のお金の正解 改訂版」として発売されました。本連載では、本書から抜粋して、定年前後に陥りがちな「落とし穴」や知っているだけでトクするポイントを紹介していきます。
退職金は基本的には「一時金」でもらうのがトク
退職金の受取方法を、「一時金」か「年金型」かで選べる場合「どう受け取るのが一番おトクか」を知りたいというご相談はとても多いです。
「年金型」の場合、支払いまでの間会社が運用してくれるので、「一時金」よりも利息がつく分退職金が増えるから、と年金型を好む人がいます。その気持ち、わからなくもありませんが、退職金の手取りを最大化する第一のポイントは「税金を低く抑えること」です。退職金の税金は、一時金でもらうほうが断然おトクです。
本書でも説明したように退職金は「一時金」でもらうと、「退職所得控除」という勤続年数に応じた非課税枠があります。この非課税枠の範囲に収まる退職金であれば税金は1円もかかりません。非課税枠を超えた部分も、その半分にだけしか税金がかからないので退職金は一時金のほうが税金が安くなるというわけです。しかも、一時金でもらう退職金には社会保険料もかかりません。
一方、「年金型」で受け取ると、老齢厚生年金などの公的年金収入とあわせて、税金を計算することになります。年金の税金には、「公的年金等控除額」という非課税枠もありますが、一時金の「退職所得控除」と比べると額は少なめですし、税金負担はどうしても大きくなりがちです。しかも、年金型でもらうと国民健康保険料の計算にも影響してくるので、国保や介護保険料の負担も大きくなります。その上、年金収入が多いと、医療費や介護費用の負担割合も高くなるといったデメリットがあります。
年金や社会保険料は、制度自体が疲弊していて将来「改悪」されていく可能性は高く、年収が高い高齢者の負担は、ますます増えることが予想されます。そういったリスクも加味すると、退職金は基本的には一時金でもらっておいたほうがいいと思います。
「年金型」の受け取りがトクになる人は?
ただし、今まで言ってきたこととちょっと裏腹ですが、一定の条件を満たしている人は、年金型の退職金を300万円まで非課税で受け取れる可能性があります。
ただし、これを使えるのは、60歳から受け取り開始をする「5年確定年金」が選べる場合に限ります。限られた人ではありますが、退職所得控除以上の退職金をもらっていて、これに該当する人は是非利用していただきたい裏ワザなので、紹介させてください。
勤続38年のAさんの退職金は、3000万円。会社から退職金の受け取り方を決めるようにと言われ、相談に来ました。勤続38年ということは、退職所得控除は、2060万円。すべてを「一時金」でもらうと、所得税と住民税で約98万円の税金がかかります。
話を聞くとAさんは、再就職をして65歳まで働く予定で、年金も65歳まではもらわないとのこと。それならば、と会社で指定されている年金の受取パターンを調べてもらったところ、5年間確定年金を選べることがわかりました。
そこで、3000万円の退職金のうち1割の300万円を「年金型」で5年に分けてもらうことにしました。結果は、「一時金」でもらう2700万円に対しての税金は、税金と所得税で約54万円と、約45万円程度圧縮することができました。
「5年確定年金型」を選択した300万円は、1年につき60万円。実は、この年金、無税で受け取ることができるのです。
前述したように退職金を年金型でもらう場合は、「公的年金等控除額」という非課税枠があり、65歳未満の場合は、年間60万円までの年金なら税金がかからないのです。
Aさんのように、公的年金を65歳以降にもらう人は、60~65歳になるまで、この年金の非課税枠を利用していないので、この枠の範囲内であれば、退職金を年金型で受け取っても、税金がかからないというわけ。
Aさんは非課税枠をフル活用し、60万円×5年間=300万円までを年金型にして非課税で受け取ることにしたというわけです。
退職金を年金型で受け取ると、国民健康保険の保険料に反映すると言いましたが、60歳以降も会社に勤めて会社の健康保険に加入している人であれば、年金を受け取っても保険料が高くなる心配はありません。
退職金が高額で、退職所得控除よりも2000万円以上多いような場合は、一部を年金受け取りにしたほうが有利なケースもありますので税理士などに相談してみてください。
*本記事は「知らないと大損する!定年前後のお金の正解 改訂版」から、抜粋・編集したものです。