上司の承認を得たり、部下に仕事を進めてもらったり、お客様にお買い上げいただいたり……ビジネスにおいて「相手の理解を得て、相手に動いてもらう」ことは必須のスキルです。そこで、多くのビジネスパーソンは「理屈で説得しよう」と努力しますが、これが間違いのもと。
なぜなら、人は「理屈」では動かないからです。人を動かしているのは99.9999%「感情」。だから、相手の「理性」に訴えることよりも、相手の「潜在意識」に働きかけることによって、「この人は信頼できる」「この人を応援したい」「この人の力になりたい」という「感情」を持ってもらうことが大切。その「感情」さえもってもらえれば、自然と相手はこちらの意図を汲んで動いてくれます。この「潜在意識に働きかけて、相手を動かす力」を「影響力」というのです。
元プルデンシャル生命保険の営業マンだった金沢景敏さんは、膨大な対人コミュニケーションのなかで「影響力」の重要性に気づき、それを磨きあげることで「記録的な成績」を収めることに成功。本連載では、金沢さんの新刊『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)から抜粋しながら、ゼロから「影響力」を生み出し、それを最大化する秘策をお伝えしてまいります。
「影響力」には、
魔法のようなパワーがある
人を動かす――。
これは、仕事をするうえで不可欠な能力です。
上司の承認を得たり、部下に仕事を進めてもらったり、お客様にお買い上げいただいたり……さまざまな場面で「相手の理解を得て、相手に動いてもらう」ことが求められます。これが上手にできるかどうかで、仕事の成果には雲泥の差がつくと言ってもいいでしょう。
ところが、ここで勘違いしがちなことがあります。
ついつい相手を「理屈で説得しよう」としてしまうのです。
もちろん、上司に承認してもらうためには、「承認すべき理由」をロジカルに説明する必要がありますし、お客様にお買い上げいただくためには、「その商品の価値」をわかりやすくプレゼンすることが欠かせません。
しかし、それだけで人が動いてくれるわけではありません。むしろ、相手を「理屈で説き伏せよう」とするあまり、かえって敬遠されたり、反発されたりする結果を招いてしまうのが現実。やる気に溢れる人ほど、この”落とし穴”に陥りがちではないでしょうか。
僕自身がそうでした。
2012年、33歳のときに、僕はTBSからプルデンシャル生命保険に転職。テレビ局の”看板”のおかげでチヤホヤされて”いい気”なっている自分がカッコわるく思えたので、日本一の営業会社であるプルデンシャルで、「自分の実力」を実証してみせようと心に決めたのです。
だけど、現実は厳しかった。保険営業は、親類や知人にアプローチすることから始めるのが通例で、僕もそこからスタートしたのですが、”義理”で保険に入ってくださる人がいる一方で、「保険に入るべきだ」などと説き伏せようとする僕に反発する人も多く、知人との人間関係が深く傷つくようなケースが増えていったのです。
AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府生まれ。早稲田大学理工学部に入学後、実家の倒産を機に京都大学を再受験して合格。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍、卒業後はTBSに入社。スポーツ番組などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。2012年よりプルデンシャル生命保険に転職。当初はお客様の「信頼」を勝ち得ることができず、苦しい時期を過ごしたが、そのなかで「影響力」の重要性を認識。相手を「理屈」で説き伏せるのではなく、相手の「潜在意識」に働きかけることで「感情」を味方につける「影響力」に磨きをかけていった。その結果、富裕層も含む広大な人的ネットワークの構築に成功し、自然に受注が集まるような「影響力」を発揮するに至った。そして、1年目で個人保険部門において全国の営業社員約3200人中1位に。全世界の生命保険営業職のトップ0.01%が認定されるMDRTの「Top of the Table(TOT)」に、わずか3年目にして到達。最終的には、TOTの基準の4倍以上の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReeboを起業。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。営業マンとして磨いた「思考法」や「ノウハウ」をもとに「営業研修プログラム」も開発し、多くの営業パーソンの成果に貢献している。また、レジェンドアスリートの「影響力」をフル活用して企業の業績向上に貢献し、レジェンドアスリートとともに未来のアスリートを育て、互いにサポートし合う相互支援の社会貢献プロジェクト「AthTAG」も展開している。■AthReebo(アスリーボ)株式会社 https://athreebo.jp
しかも、知人のよしみで保険に入ってくれた人も、僕にその方の知人を紹介してくれる人はあまりいませんでした。強引な営業をする僕を紹介したら、知人に迷惑をかけるのではないかと危惧したのだと思います。その結果、営業マンになって半年が過ぎた頃には、新規営業をするために連絡をする相手が尽きてきたのです。
これには震え上がりました。
フルコミッションですから、契約をお預かりできなければ報酬はゼロ。「このままいったら、人生終わる……」。普段は努めて平静を装っていましたが、妻や幼い子どもたちを路頭に迷わせるという最悪の状況を思い描いては、吐き気を催すほどの危機感に苛まれる毎日でした。
あの頃は、本当に苦しかった。だけど、八方塞がりの状況のなかで、なんとか活路を見出そうともがくなかで、僕は、徐々に「影響力」というものの重要性に気づくようになりました。
そして、試行錯誤を重ねながら、「影響力」を正しく扱う方法を磨き続けることで、次第に状況が変わり始めました。お目にかかるお客様から好意的な反応を返していただけるケースが増加。かつて人間関係を傷つけていた頃とはまったく違って、自然な会話の流れのなかで、「わかった。君のすすめる保険に入るよ」「あなたに紹介したい人がいる」といった言葉をかけてもらえるようになったのです。
気がつけば、あれだけ苦しんだのが嘘のように、なんと初年度で個人保険部門において全国の営業社員約3200人中の第1位を獲得。「影響力」という武器を身につけることで、状況を一変させることができたのです。