人間を動かしているのは、
99.9999%「感情」である

 では、「影響力」とは何か?

 僕は、「潜在意識に働きかけることで、人を動かす力」のことだと考えています。

 重要なのは、「潜在意識に働きかける」という部分です。相手の「潜在意識」=「自覚されていない意識」に働きかけることで、相手が自発的に考えを変えたり、行動を起こしたりする。この能力を、僕は「影響力」と呼んでいるのです。

 と言っても、よくわからないですよね?

 これから、わかりやすく説明するので、もう少しお付き合いください。

 先ほど僕は、「『理屈で説得しよう』とすると、かえって敬遠されたり、反発される」と書きました。僕自身、営業マンになって骨身に沁みたことですが、「理屈で説得する」ことで、相手を動かすのは至難のわざなのです。

 なぜ、難しいのか?

 理由は簡単で、人は「理屈」では動かないからです。

 僕たちは、なんらかの行動を起こすときに、「理性の力」でその決断をしたと思っていますが、これは錯覚にすぎないと僕は考えています。実際のところ、僕たち人間を動かしているのは99.9999%、「感情」だと思うのです。

 これは、大きな決断であればあるほど当てはまることです。

 買い物の場面を思い浮かべてください。数百円の日用雑貨品を買うときには、いくつかの商品を比較して、値段や効果効能で最も優れているものを、「理性」で選択していると言えるかもしれません(実際には、メーカーのブランド・イメージやパッケージ・デザインなど、非理性的な要素が意思決定を大きく左右していると思われます)。

 だけど、家や車などの高額商品を買うときには、値段や効果効能を踏まえながらも、最終的な決め手となっているのは、「これしかない!」「これが気に入った!」といった「感情」であるはずです。「感情」の強い後押しがなければ、大きな決断へと踏み出すことができないと言ってもいいでしょう。

行動を支配しているのは、
「理性」ではなく「潜在意識」である

 そして、その「感情」が生まれた原因を、言葉で語り尽くすことはほとんど不可能ではないでしょうか?

 いろいろ理由をつけてはみても、結局のところ、「なんか好きなんだよね」「ピンときちゃったんだよね」ということに尽きると思うのです。その「感情」を生み出しているのが、「潜在意識」=「自覚されていない意識」だとすれば、完全に言語化することができないのも当然のことでしょう。つまり、僕たちの言動や思考を根本で支配しているのは、「潜在意識」=「自覚されていない意識」なのだと思うのです。

 であれば、人に動いてもらうために決定的に重要なのは、「理屈」を伝えることで、相手の「理性」に訴えかけることではなく、「潜在意識」=「自覚されていない意識」に働きかけることによって、相手の「感情」を動かすことにほかならない、ということになるはずです。

 相手の「潜在意識」において、「この人は信頼できる」「この人を応援したい」「この人の力になりたい」といったポジティブな感情が生み出されたときにはじめて、相手は自らの意思で、「わかった。あなたの言うとおりにしましょう」と決断し、行動を起こしてくれるのです。