突然の土下座に
驚く社長夫妻
こんなやりとりが5分10分続いたころ、一際大きな声でこう言った。
「社長!この通りです。こんなお願い、社長しかできません。社長が首を縦に振っていただくまで、帰れません!」
熱川支店長は社長の座るソファの前で土下座を始めた。この姿には社長も私も驚き、ただただ支店長の後頭部を見下ろすしかなかった。ドラマなど見れば私も一緒に土下座をしなければならないところだが、あまりに突然のことで気が回らなかった。そこにちょうど、支店長が持参したあん巻きを小皿に乗せ、事務服に着替えた奥さんが入ってきた。
「100個以上もあったわ。うちでは食べきれないから、どうぞ…?」
その光景に奥さんは絶句した。それもそのはず、デビッド・ボウイが社長の足元で土下座しているのだ。
「ちょ、ちょっと!何してらっしゃる?あなた、いや、社長、何よ、どうしたの?」
「カネ借りてほしいんだわ」
「カネ?融資のこと?いくらなの?」
「3億だと。えらいもんだわ」
「さ、3億って!随分とまあ。そんなに借りて何に使えばいいのかしら」
「だもんで、金額が大きすぎるんだわ。こっちにも信金さんの付き合いがあるもんで、M銀行さんが借入残高で一等になったらいかんのだわ。自分のことばっか考えとったらいかんよ」
二人からの波状攻撃が何分続いただろうか。社長夫妻の語気が強くなるのも無理はない。5分が1時間に感じるほどのつらさだった。私は何も言葉を発せず、ただただ社長夫妻と同じように支店長の後頭部を見つめるだけしかできなかった。