挙手をする小学生たち写真はイメージです Photo:PIXTA

多くの学校から断られる
夏休み子ども銀行体験教室

「今年の夏休み子ども銀行体験教室、どうする? 去年、小岩第三小学校には断られたよな。新しい学校を探すか? それとももう一回、小岩第三小に頼みこむか…どうしたもんかな」

 ゴールデンウイークの終わり、毎年夏休みに開催している児童向け職業体験に招く学校選定に苦労していた。

 私が働くM銀行では毎年、地域貢献の一環として地元の小学校に声をかけ、校内で20~30人程度の希望者を募ってもらい、支店内見学と職業体験を行っている。必ず全支店で実施しなくてはならないものではなく、実施するしないは支店長の裁量に任されている。

 ただし実際にやるとなると、なかなか面倒なことが多いものだ。このイベントの担当は、私が属する預金担当課になることが多い。支店設備の見どころのほとんどが、営業を担当する取引先課ではなく、預金担当課の管轄下にあるからだ。そんなこんなで、私たちが小学校や中学校への参加呼びかけをすることになる。

「もしもし? 副校長さんですか? M銀行下小岩支店でございます。いつもありがとうございます。夏休みに職場体験と銀行見学を開くので、お子さん方にお越しいただきたいのですが」

 当時の私は、下小岩支店に勤務していた。拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』にも記した、同僚と支店長が私の印鑑を盗んだあの支店だ。彼らが異動していなくなった後、体験教室が実施されることになった。しかし多くの学校から、こんな返事が返ってくる。

「何のためにやるんですか?」

「学校の年間行事はもう決まっているので、途中で追加はできません」

「教師に引率させるなら、夏休みだと休日出勤になるわけで、組合側との調整も必要。簡単にはいかないんです」

「事故が起きたら、銀行、学校、どちらの責任になりますか?」

 地域に貢献したいという思いで打診した我々としては、面食らうものだった。「学校側にとって何がマイナスになるか」ばかりで「子供にとって何がプラスになるか」は全く質問されない。子供ファーストという視点がないと、こういう企画は成立しない。

 しかし、冷静になり、なぜ副校長がそのような質問をしたのか、その背景を考えてみた。私は銀行員ゆえ、教師の労働実態を知らぬまま、銀行の都合で企画を押し付けていたかもしれない。今の学校をとりまく環境は、自分たちの時とは全く違うことを忘れていた。

 自分の子供が小中学校に通っていた時のことを振り返っても、内申点などの進路指導、部活動の顧問などの課外活動、ちょっと感覚がズレたモンスターペアレントの相手などなど、われわれ銀行にはない想像を絶する心労にさいなまれているだろう。

 そのような中、駅前の銀行から能天気に「夏休み子ども銀行体験教室をやりませんか?」と言われても、前のめりに賛同できないのは無理もない。何度も断られるうちに「子供ファースト」と振りかざしていた自分こそ、身勝手な押し付けをしていたかもしれないと反省した。