デビッド・ボウイ似の支店長にも
首を縦に振らない社長

 20分ほどで今西島製作所に着くと、社長がいた。居留守はしていなかった。

「なんだん目黒さん!支店長連れてくるなら、前もって言っとくれん」

「いつも目黒がお世話になってます。いや、私が勝手についてきただけなんですよ。目黒を悪く思わないでください。ご無沙汰してしまって、社長のご尊顔を拝まなければと思いまして」

「支店長がわざわざ来るなんて、なんの御用ですか?」

「いやあ、目黒がお願いばかりしているんじゃないかと心配しておりました」

「ほんで熱川支店長のお出ましというわけですな。要らぬカネは借りるわけにはいかんでしょう。こっちは信金の理事をやらされとるんで、メイン銀行を移すなんてそもそも筋が通らない。付き合いってもんがあるんですわ」

 その時だ。経理を担当している社長の奥さんが、お茶をお盆に載せて社長室に入ってきた。

「奥様、ご無沙汰しています。M銀行です。あ、これ、あん巻きですが、皆さんでどうぞ」

「あら、支店長さん!こんなにたくさん、ごちそうさま。いやだわ、連れてくるなら前もって言ってちょうだいよ、目黒さん!」

 熱川支店長はデビッド・ボウイ似、男の私が見てもほれぼれするほどのイケメンだ。社長の奥様世代の女性ウケはすこぶる良かったようだ。

「またいつでも寄ってくださいねー」

 私には出さないワンオクターブ上の高音で、奥さんは部屋を出ていった。

「すみませんね。気遣いいただきまして」

「いや、奥様がお好きだと前におっしゃってましたので。喜んでいただけたらうれしいです」

「それと融資の件とは別ですわ。さっき話した通り、こっちの立場を少し考えていただけんですか」

「社長もお忙しいと思いますので、単刀直入に申し上げます。融資、使っていただけませんか?」

「だもんで、おたくから借りる理由がないって言っとるじゃないですか。やあへんやあへん」

「そこをですね、なんとか…」