「子どもには、少しでも体によいものを食べさせたい!」ですよね。
でも、ごはんは毎日のこと。なるべくシンプルで簡単に済ませたいものです。
この連載では、『医師が教える 子どもの食事 50の基本』の著者で、赤坂ファミリークリニックの院長であり、東京大学医学部附属病院の小児科医でもある伊藤明子先生が、最新の医学データをもとに「子どもが食べるべきもの、避けるべきもの」をご紹介します。
不確かなネット情報ではなく、医学データと膨大な臨床経験から、本当に子どもの体と脳によい食事がわかります。毎日の食卓にすぐに取り入れられるヒントが満載です。
※食物アレルギーのある方は必ず医師に相談してください。(初出:2023年4月10日)
朝食にたんぱく質を摂取することで
お友だちとのトラブルが減ります
たんぱく質をしっかり摂ることで周囲の人たちとのトラブルが減ることを示す研究が、1990年代から出ています[*2]。2017年には朝食でたんぱく質をしっかり摂った人ほど、やさしい態度がとれたという結果が出ています[*3]。この場合の「しっかり」とは、たんぱく量(食品に含まれるたんぱく質の量)で35g。大人での研究とはいえ、多い量です。
この研究はドイツの大学生を対象に行ったものです。同じカロリーの朝食で、炭水化物が多いグループとたんぱく質が多いグループに分かれて、「最後通牒(つうちょう)ゲーム」を行ったところ、「炭水化物の多いほう」が相手からの提案を拒否する傾向が高く、「たんぱく質の多いほう」が、相手の提案をより受け入れたという結果でした。
このゲームは行動経済学やゲーム理論の研究で行われます。
内容は、
●そのうちのいくらかをBにあげることを提案する
●金額はAが自由に決められる
●Bがその金額を受け入れれば、両者ともその報酬を持ち帰ることができる
●Bが拒否すると2人とも手ぶらで帰ることになる
というものです。
たとえば提案者であるAが「10万円のうち、1万円を相手(B)にあげます」と提案したとします。Bはそのオファーを拒否すると、もらえるお金は0円ですが、受け入れれば1万円もらえます。
さて、あなたならこの提案を受け入れますか? もらえないより1万円でも手に入るほうが得と考えて、OKするでしょうか。
実際にこのゲームを行うと、拒否する人が高い確率で現れます。受諾者は「自分がこんなに少なくて、相手が多いのはずるい」と感じ、提案者が得をしないように、すなわち相手への懲罰感情から拒否します。公平感覚、利他心などを反映し、寛容な心をもち、他者の受け入れが広い人ほど拒否しない、相手を罰したいと思う人ほど拒否をするといわれています。
たんぱく質と気分・情緒は密接に関係している
この研究は食べ物の内容(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン・ミネラルなど)によって社会的な行動、人間関係に関わる行動が変化することに注目した研究です。
20年ほど前の食事と情緒に関する研究では、血糖が下がると、うつやいら立ちが起きることが注目されていました。甘いものを食べるとその瞬間は幸福感を覚えますが、その後にインスリンが分泌されることで血糖が急降下して、疲労や気分の沈み、眠気、いら立ちが起きるというものです。
しかし今は、単純に血糖の問題ではなく、たんぱく質を構成するアミノ酸が私たちの脳内ホルモンの原材料でもあることから、たんぱく質と気分・情緒の関係性も研究されています。
この結論として研究者らは、朝食の栄養成分と量・内容が社会的な意思決定を左右することを示した、としています。血糖の上下だけでなく、チロシンやトリプトファンなどアミノ酸(たんぱく質を構成する成分)の変化を血液検査でも調べているので、食事の内容と反社会的な行動が密接に関わっている可能性があることを示す、と結んでいます。
ですから朝食に、卵や高たんぱくの食材、ギリシャヨーグルトなどを追加しましょう。
たんぱく質が少ないとキズが治りにくい
皮膚や髪の毛、爪などはたんぱく質です。摂取するたんぱく質が足りなければその質が落ちるのは自然なこと。爪が割れやすくなったり、毛髪がパサパサになったりします。キズの治りが悪い患者さんのたんぱく量は、血液検査でも低値です。
日本人のたんぱく質摂取量は、1950年ごろから高度経済成長とともに増加しました。その後1990年代半ば以降から減り始め、近年は1950年(昭和25年)ごろと同じくらいの水準です。この傾向は10代の年齢層でも同様です。
このような状況から、従来の基準よりも多く摂取したほうがいいのではないかという研究報告が出ています。
実際にクリニックの診察室で心身の調子を崩した子どもたちを診ていると、たんぱく質が不足している子が多く、深刻な状況であることを感じます。
このほかにも『医師が教える 子どもの食事 50の基本』では、子どもの脳と体に最高の食べ方、最悪の食べ方をわかりやすく紹介しています。
(本原稿は伊藤明子著『医師が教える 子どもの食事 50の基本』から一部抜粋・編集したものです)
*3 Strang S, et al. Impact of nutrition on social decision making. Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Jun 20; 114(25):6510-6514.