2023年10月からインボイス制度が始まります。「増税ではないか?」「経理の手間が増え、負担が増大する」など、さまざまな意見が出ています。そのインボイス制度の影響を強く受けるのが「ひとり社長」です。しかし、業種・業態・売上規模によっては、「インボイスに登録しないほうがいい」と提案できるケースもあり、戦略的な選択が求められる制度ともいえるのです。
本連載は、経費精算から決算・申告まで、ひとり社長の経理の基本を学ぶものです。著者は、税理士の井ノ上陽一氏。インボイス制度、電子帳簿保存法に完全対応の『【インボイス対応版】ひとり社長の経理の基本』の著者でもあります(発売は8月2日)。「ひとり社長なら、経理はこれだけでいい!」とポイントをおさえた1冊になっています。
現金を使わない「裏ワザ」会計術
経理上、「現金」は非常に難易度が高いものです。
預金なら通帳またはネットバンクに記録が残り、残高も把握できますが、現金は、1000円札が何枚、100円玉が何枚と数えないと残高がわかりません。社長の財布から出した現金が、会社のものか個人のものかの区別も難しいものです。
そこでオススメしたいのは、「現金」を使わないこと。現金で支払ったものは、すべて社長が立て替えたという処理をします。会社から見ると、社長から借りている、つまり役員借入金と処理するのです(「社長借入金」「短期借入金」でもかまいません)。
今はクレジットカード、交通系IC、QRコード決済など多様な支払い方法があります。これらもすべて「役員借入金」で処理しましょう。もちろん、役員借入金は実際の残高を確認できませんので、忘れず正確に入力する必要がありますが、現金残高を合わせる、現金残高がマイナスになるといったストレスからは解放されます。
一定の金額が貯まれば、会社名義の口座から、個人名義の口座へ振り込みます。または定期的に定額(例えば10万円)を振り込んでもかまいません。
なお、会社から多く振り込みすぎないようにしましょう。「役員借入金」ではなく、「役員貸付金」になってしまいます。その場合、融資を頼む際など銀行にいい印象を与えません。融資したお金を個人(社長)へ貸しているからです。
決算前に「役員借入金」がマイナスになっていないかを確認し、もしなっていたら、個人口座から会社へお金を振り込みましょう。「役員借入金」が決算書に残るのは問題ありません(残らないほうがベターです)。
(本原稿は井ノ上陽一著『【インボイス対応版】ひとり社長の経理の基本』から一部抜粋したものです)