歯科医院は苦手!
五感すべてが拒否反応
「あれ?ドンマ……ちゃん……?」
「あ、カビンくん!」
びっくりした。すごい偶然だ。
ここは家の近所のデンタルクリニックの待合室。学校の歯科検診で虫歯があると言われていたけど、ずっと逃げてきた虫歯治療。
ついに母に「いいかげん行きなさい!」と怒られてしぶしぶやってきた。まさか、ドンマちゃんに会うなんて。
ただでさえ歯科医院は緊張するのに、なんかへんな汗が出てきた。
感覚過敏の僕にとって、歯科医院は恐怖でしかない。苦手なものが多い僕の中でもトップクラスだ。
つらいところを説明するとキリがない。
まず、治療台のライトのまぶしさ。
そして独特なニオイ。
待合室にも聞こえてくる、キーンというドリルの音。
フッ素などを塗られているときのニオイや味、ゴム手袋の感触。
それでもって、痛い。
「みんなも痛いから」って言われるけど、感覚過敏をなめんなよ。その辺のやつらが思う痛いとはレベルが違うんだ!
小さい頃は歯科医院でパニックになってしまい、治療ができなかったこともあった。
ああ、どうしよう。怖い。逃げたい。
だんだん気分が悪くなってきた……。
「偶然だね。カビンくん。家、この近くなの?」
そう話しかけられたけど、治療前の恐怖と気分の悪さで言葉が出てこない。僕は、ドンマちゃんのおでこのコブが青黒いアザになっているのを横目に見ながら、ようやく言葉を絞り出す。
「う、うん。そう。歩い、て……5分くらい?かな(汗)」
中学生にもなって歯科医院が怖いなんて恥ずかしくて言えなかった。けれど、認めるしかなかった。
「カビンくん、繊細なんだね。私はね、よく人からびっくりされるんだけど、痛みとかあまり感じないから、虫歯治療も痛くないし、歯医者さんが怖いと思ったことはないんだよね」
え?今なんて言った?痛みを感じない?
「虫歯の痛みもわからなくて、かなりひどくなってからやっと気づく感じ。だから、いつも虫歯の治療が大変なんだ~」
他人から見たら大袈裟って言われるくらい、痛みで泣いたり暴れたりしてきた僕とまったく逆じゃないか。
こんな人もいるんだと、新たな発見と同時に感心してしまった。
僕は、感覚過敏で苦労していることを、ドンマちゃんに打ち明けた。
「へえ、そうなんだ。それは大変だね。私はその苦労はわからないけど、ちょっと感覚がみんなと違うってことでは、私たち似た者同士かもね」
少し照れたように話す彼女の姿に、僕は、緊張が少し和らいだ気がした。