そんなわけで、新しい疑問が生まれた。良性の肥満と不健康な肥満の違いはどこから来るのだろう?

 チャールズ・パーキンス・センターの研究仲間アンドリュー・ホームズとの共同研究で、その手がかりをマウスの結腸に見つけた。低タンパク質/高炭水化物食のマウスは、低タンパク質/高脂肪食のマウスに比べ、腸内により健康的な微生物叢をもっていた。

 ほかにも違いがあった――肝臓から放出される「FGF」(繊維芽細胞成長因子)と呼ばれるホルモンの濃度が、低タンパク質/高炭水化物食のマウスは驚くほど高かったのだ。

 FGFは、タンパク質欲の制御における重要なシグナルであることがわかっている。FGFはインスリン感受性を改善させ、代謝の健康を促進する効果がある。つまり、血液中のブドウ糖を細胞に取り込むためにインスリンをそれほど生成する必要がなくなる。

 またFGFは、過食の状態でエネルギー消費を促す。

 これらの要因は、マウスだけでなくヒトにおいても重要な役割を果たしている。ルイジアナ州立大学ペニントン研究所のクリス・モリソンと行った別の実験で、私たちはFGFの濃度が上昇すると、マウスはタンパク質豊富な餌を明確に選択することを明らかにした。

 科学の歩みは速いもので、これを執筆している今も、FGFがこれまで見逃されていたタンパク質欲ホルモンであること、またFGFが炭水化物欲のスイッチオフに関与していることを裏づける、いくつかの重要な論文が発表されつつある。このように、肥満は予想以上に複雑だということをマウスは教えてくれた。

 単にやせているからといって、健康で長生きできるわけではない。それどころか、 高タンパク質/低炭水化物食のセクシーなやせたマウスは、すべてのマウスの中で最も寿命が短く、見栄えのいい中年の死体になった。なぜなら、高いタンパク質対炭水化物比は、急速な老化に関連する経路を激しく活性化させ、細胞とDNAの修復・維持メカニズムを弱め、老化やがん、そのほか慢性病を促進する比率でもあるからだ。これは望ましい状態とはいえない。

 そしてこれはおそらく、マウスに限った話ではない。なにしろ老化と代謝に関する限り、人間はマウスと生物学的に同じなのだ。