100歳以上の人口割合が
飛び抜けている沖縄の食事

 マウスの実験を通して、餌を簡単に操作するだけで、様々な結果を引き起こせることがわかった。

 まるでダイヤルをひねるように、これを少し増やしあれを少し減らすだけで、肥満を起こすことも止めることも、筋肉を増やし体脂肪を減らすことも、がんを予防することも促進することも、老化を遅らせることも速めることも、繁殖を促進することも抑制することも、腸内微生物叢を変化させることも、免疫系を起動させることもできるのだ。

 私たちはただタンパク質と脂肪、炭水化物のダイヤルをひねるだけで、このすべてを実際にマウスで行った。またその結果をグラフで明確に視覚化して、マウスを健康にするための非常に正確な食餌を提案することができた。

 そして原理上は、人間を健康にするための食事も提案できるはずだ。「低タンパク質/高炭水化物食」が、ヒトの長寿と健康をもたらすことを示唆する証拠はあるだろうか?

書影『食欲人』(サンマーク出版)『食欲人』(サンマーク出版)
デイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソン 著

 それがあったのだ。「ブルーゾーン」と呼ばれる世界の超長寿地域に暮らすすべての人が、まさにそうした食事を摂っている。ブルーゾーンとは、ダン・ビュイトナーが2008年の著書『ブルーゾーン 世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ健康と長寿のルール』で流行らせた用語だ。

 ブルーゾーンの住民の中でおそらく最も有名なのは、日本の沖縄の人々だろう。沖縄は100歳以上の人口割合がほかの先進国平均の5倍である。

 サツマイモと葉物野菜を主体に、少量の魚と赤身肉を組み合わせた伝統的な沖縄食は、タンパク質比率がわずか9%(食糧難の地域を除けば世界最低水準)、炭水化物が85%、そして脂肪がわずか6%だ。これは実験の最長寿命のマウスが摂取していた比率にほぼ相当する。

 伝統的な沖縄の食事を摂っている人は、肥満とほぼ無縁だった。その理由の1つは、食事の食物繊維含有率が高いからである。

 食事に十分な食物繊維が含まれると、カロリーの過剰摂取を駆り立てるタンパク質レバレッジの効果が弱められる。食物繊維は胃で膨潤し、消化速度を遅らせ、腸内微生物の餌になる――これらすべてが組み合わさって、空腹感を抑える効果がある。

 この食物繊維の多くが、沖縄の人の主な炭水化物源であるサツマイモや、そのほかの野菜や果物に含まれているのだ。

 残念ながら現代の沖縄の人々の食事内容は、伝統食から欧米型に近づきつつあり、それとともに肥満や糖尿病が増えている。