銀行が来店予約制度を
導入した二つの狙い

「銀行員の皆さん、今日も出勤ご苦労さまです。皆さんのおかげで今日も預金口座を利用できます。振り込みもできます。本当に頭が下がります」

 とは言われない。そういえばそうだ。本心では、ありがとうと言ってほしかった自分がいたのかもしれない。ライフラインであり、あって当然やって当然の仕事と思っていたが、社会全体からすれば銀行窓口なんかどうでもいい時代になっている。渋沢栄一が産業発展のために奔走して銀行を設立した時代とは明らかに違い、今や社会インフラとしての存在感はない。

 この連載で何度も触れているが、メガバンクのリアル店舗の削減は、この10年で急速に進んでいる。人員削減と店舗運営にかかる固定費の削減が背景にある。そして、コロナ禍においてデジタル化が進んだことも大きい。

 コロナ禍で外出を自粛させた際、ネットバンキングの利用はスマホ世代へ爆発的に広まった。各銀行はネットバンキングの利用を促進し、ATM利用手数料を優遇するなど特典を与え、窓口への来店客を抑制した。

 以前は窓口でないと手続きできなかった住所変更や、カード紛失時の再発行までも、インターネットバンキングで可能な銀行が増えている。また、○○ペイなどのスマホ決済が増え、現金をサイフに入れておく必要が少なくなり、ATMの利用はさらに遠ざかっている。

 そして銀行窓口は、顧客を選別するようになった。どのメガバンクも同じ手口だ。

 コロナ禍が始まり、多くの支店が銀行窓口において来店予約制度を敷くようになった。歯科医院も美容院も携帯ショップも予約が当たり前の時代、銀行もそれに倣うというわけだ。ロビーが密になり感染を防ぐというのが大義名分。ただし、これには二つの狙いがある。

 一つ目は、予約により来店人数を過剰に抑制し、交代勤務で人員を絞って営業できるようにすること。来店予約枠数は各支店の裁量に任せているので、支店ごとに好き勝手に枠数を絞ることができる。

 聞いた話では、玄関のシャッターを完全に閉め、1人通れるくらいの通用口だけを開放。庶務行員が予約の有無を尋ね、ない者は帰らせる支店もあったようだ。窓口に行きたいと殺到するお客が入れないように、ゴールキーパーのように両手を広げてブロックしたり、会議室の長机でバリケードを作ったり。そこまでして来店客を拒否する支店があったなんて、腹立たしさを通り越し、あきれたものだった。

 私が在籍するみなとみらい支店では、1時間当たりの予約枠を18枠設け、時間の空いたところで予約なしのお客も受け付けていた。18枠ということは、すなわち3分ごとに1人のお客へ対応することになり、コロナ前に近い窓口対応を行っていたことになる。

 しかし他の支店では、敢えて1時間当たりの予約枠を2枠しか設けず、さらに予約のないお客の受け付けを断っていたのだ。そうなると、顧客の利便性を第一に考える正直な支店に顧客が集中する。

 都内で銀行がそれなりに立地する地域では、振り込みや両替を受け入れてくれる銀行窓口をあちこち探し歩くお客もいたようだ。同じ銀行でも支店によって対応方針が違うのは、お客からすれば不信感しかない。

 二つ目は、予約によって事前に見込客を特定できることだ。現在、銀行の個人ビジネスはお客の預金を投信・保険・NISA・iDeCo(個人型確定拠出年金)に向かわせることを重点に置いている。あらかじめ来店するお客の属性や取引状況を把握できれば、効率的なセールスにつなげることができる。

 逆の事例で言えば、住宅ローンはかつて個人ビジネスにおいて最重点に位置付けられ、各行とも仁義なき借り換え戦争を繰り広げてきた。ところが住宅ローンは申し込みから実行、その後の債権管理などのメンテナンスに膨大な人手とコストが必要で、長く続いた低金利の状況下では、極めて低採算の業務になっている。

 なおかつネット銀行や公庫のフラット35が充実し、リアル店舗を抱えるメガバンクとしては、積極的に携わる理由がなくなっている。フラット35とは、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する、最長35年の全期間固定金利の住宅ローンである。金利が変動せず、契約時の保証人も不要な点がメリットだ。我がM銀行のほか、都市銀・地銀・信金など全国300以上の金融機関で扱っているが、なんと三菱UFJ銀行では扱っていない。