部下を黙らせるための
かつてのマジック・センテンス
その昔、管理職を如才なくやるためには、以下の3つの問いさえあれば良いと言われていた。
一つ目は、「過去の事例は調べたか」である。自社が過去、同様の件に遭遇したときにどのように対応したかを調べ、基本的には、完全コピーで対応する。このような前例踏襲の思考行動様式は、社内から非難される可能性も低く、過去それなりに機能してきた方法であるがゆえに、如才ない人にとってはとても使い勝手が良い。
二つ目は「他はどうしているのか」である。ほとんどの場合、自分のところで起こっている問題は、同業他社または社内の別の部署でも起こっている。だから、新しい挑戦をしたがる会社や人がどのように対応し、どのような結果になったのかを見てから行動すれば良いという思考行動様式である。成功した方法はまねし、失敗していたらその領域には近寄らない。これまた如才ない人にとっては、大変効率の良い対処の仕方である。
三つ目は、「○○さんはどう言っているのか」である。社内の有力者がこの案件に対してどのような意向を示しているかを把握し、その意向に沿った行動をすることが如才なく生きるためには重要である。たとえ会社の繁栄や成長にとって必要なことであったとしても、社内の有力者が良いと思っていない行為は絶対に歓迎されない。成功しても高い評価は得られない。大成功したときだけ、「私も前から君の考えが優れていると思っていたんだよ」と前言撤回がなされるのである。意向に反する行動の結果への期待値は異常に低い。よって、有力者の意向を把握し、それに沿って対応することも如才なく生きるためには重要なのである。
こうしたマジック・センテンスに依存する人は「自分で考えず」「安全第一」で「挑戦しない」人であるから、そのような思考行動が合う仕事に変わってもらった方が良い(すなわち出世させない方が良い)。
しかしながら、如才ない人というのは生きていく上で賢い。上記のような伝統的な問いに終始していると、最近では会社や周囲からの評価が低くなることを直感的に理解し、現在は上記の3つのセンテンスは積極的には使われなくなってきた。
その代わり、最近は、別の言葉が使われるようになっている。それはリスクとエビデンスである。いわく、「リスクは十分に検討したのか」「エビデンスに基づいているのか」だ。