眠りたいのに眠れない、ストレスがたまりがちな人におすすめなのが、『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』(大嶋信頼著)だ。著者は著書累計55万部を突破している人気心理カウンセラーの大嶋信頼氏。最新作の本書では、心理学的なアプローチによって、読むだけで眠くなるメソッドや眠りをうまく活用する方法を紹介。「よく寝られて健康にいい本」「ものすごい安心感に包まれた」「睡眠の意味づけが変わる1冊」といった感想が寄せられている。今回は本書の発売を記念して、睡眠クリニック「RESM新横浜」で副院長を務める、精神科医で禅僧の川野泰周氏に、「眠り」の重要性や本書の活用法などについて聞いてみた。(取材・構成/林えり、文/照宮遼子)

【精神科医が教える】「眠らなければいけない」と思うと、かえって眠れなくなる理由とは?Photo: Adobe Stock

いきなり「朝型人間」に変わるのは難しい

──つい夜遅くまで仕事をしてしまうのですが、さあ眠ろうと思っても頭がさえて全然寝つけないんです。

川野泰周(以下、川野):寝る直前まで仕事をしてしまうと、脳が覚醒状態のままになっているため、眠りにつきにくくなることはイメージしやすいかと思います。

寝る前に頭が活性化しているような状況だと、交感神経が働いてしまい、体が緊張している状態になるので、眠りから遠ざかります。

眠る前は緊張するような物からできるかぎり離れて、副交感神経を働かせてリラックスしていたほうがいいんです。

──やっぱりそうですよね……。朝型人間になりたいので、早めに布団に入るようにすれば、睡眠リズムが整いますか?

川野:確かに布団に早く入る心がけは睡眠リズムを整えるために有効ですが、あまりにも夜型に偏っている人が、一日だけ早く就寝しようとしても、いきなり朝型になるのは難しいと思います。

体には睡眠リズムの元になる「時計細胞」があって、毎日規則正しく刻んでいます。

脳の視床下部からの指令を受け、松果体という部位から、メラトニンというホルモンがおおよそ決まった時間に分泌され、自然な睡眠がもたらされるというメカニズムが、私たちの体には備わっているんです。

そういうわけで、いつも深夜2時に寝ている人が、3~4時間も前倒ししてメラトニンを分泌させることは、どうがんばってもできないというわけです。

「寝なければいけないのに」と思うこと自体がストレス

──たしかに早く眠りたくて早い時間に布団に入っても、全然寝つけませんね。寝ようと意識すると、かえって眠れなくなる人は多いと思いますが、これは医学的な観点でいうと、どういったことが体に起きているのでしょうか?

川野:寝たいけど寝られないという「葛藤」が、心の中で起きているんですね。

「葛藤を抱えている = ストレスを抱えている状態」です。

「こうあるべき」「こうあってほしい」という考えに対して、実際の状況はそうなっていない、つまり理想と現実の間に乖離(かいり)が大きいほど、生じる葛藤は激しいものになるということ。

寝なければいけないのに寝られないと意識すること自体がストレスになるのです。

「毎日しっかり長く眠らなければいけない」という執着を手放す

──結局、眠れない状況を自分でつくってしまっているんですね。

川野:寝なければいけないという意識は、眠りにとって逆効果になってしまいます。

ストレスが高まると、交感神経系が優位になり、体が眠りの準備に入りづらくなってしまうからです。

冒頭でお伝えしたとおり、体がリラックスした状態に導かれていかないと、なかなか睡眠に入りづらいのです。

体が緊張している場合は、眠り以外のことに意識をそらしたり、心を落ち着けたりすることによって、自然な睡眠に誘導する助けとなるでしょう。

──「眠ること以外」に意識をそらす方法、というとどういうものがあるでしょう?

川野:たとえば、心が癒されるような音楽を聴くのもいいですし、あたたかいノンカフェインの飲み物を飲むのもおすすめです。

風景写真や動物の写真など、自然と癒されるような本もいいでしょう。

あと、私も拝読したのですが、心理カウンセラーの大嶋信頼先生が書かれた『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』は、読むだけで眠れる本ということですが、「眠ろう」と意識させるのではなく、「眠ること」から意識の矛先を変える手法がとても優れていると思います。

大嶋先生のご専門であられる「深層心理」に着目して、「暗示フレーズ」を使ったり、「眠り」から意識をそらしたりするなど、直接的に寝ることに意識を集中させない点が画期的だと感じました。

──最後に、眠りたいのに眠れない読者の方にメッセージをお願いします!

川野:眠れないという悩みをお持ちの方は、「眠りたいという願望」を手放すことができればよいのですが、それができれば苦労はありませんよね。

大切なことは、「毎日きっちり同じだけ長く眠らなければならない」という執着を、まずは手放していただくことです。

眠らなければいけないと気負いしてしまっている方は、『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』のワークに取り組むと、その執着を手放せるかと思います。睡眠に悩みのある方にはおすすめの1冊です。

川野泰周(かわの・たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医。
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
主な著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。