春香「まだピンと来ないんですけど……」

黒野「なんと!ここまで説明しているのにピンと来ないとは。さすが現代人ですねぇ。驚きです」

 仕方ないなといった面持ちで、黒野はホワイトボードに何かを書きはじめた。

黒野「結論から先に言いますと、時間もお金と同じで、大切な何かに使うなら、先に確保しないとダメだ、というお話です。こう考えるとわかると思います。

 お給料から毎月5万円貯金するなら、次の、

(1)お給料日に、すぐ5万円を別口座に貯金する方法
(2)1カ月やりくりして残ったお金を貯金する方法

 どちらのほうが、確実にお金を確保できると思いますか?」

春香「それは、(1)のお金を使う前に先に別口座に貯金する方法ですね」

黒野「その通り。時間も同じというのはそういうことです。何かに時間を使いたい、投資したいと思った時に、忙しいから時間がないとか、できないではなく、本当に必要なことなら先週の青井さんのように先に確保しなさい、ということです。

 つまり、先週の青井さんは、今週がはじまる前に必要な時間を確保した。言うならば貯金したわけですね。ですから、今日こうして、その貯金をわたしと会うことに投資できているわけです」

春香「なるほど!だから時間貯金なんですね」

 春香はようやく理解したようだった。

黒野「そうです。だから『忙しくて時間がない』は単純に時間を先に確保していないということなのです。もし、今日を青井さんが『時間を投資して何を得たいのか考える時間』として事前に確保していたら、得たい結果を得られたのではないですか?」

春香「たしかにそうですけど……。でも先生。時間を確保したくても、本当に時間が取れない時ってあると思うんですけど……」

「いつまでにやる」ではなく
「いつやるか」を決める

 春香は完全には納得していないようである。

黒野「そういう時は、シンプルに『それが今の自分にとって、時間を事前に確保するほどは重要ではない』ということです。

 なぜなら、もしも、『来週の木曜日の同じ時間に研究室に来たら10億円さしあげます』と言ったら、どんな予定よりもこの研究室に来ることを優先させますよね」

春香「たしかに!10億円もらえるのなら、どんな誘いも断って、何よりも優先して、這ってでも来ますね」

 春香は笑いながら言った。

黒野「まったく現金ですねぇ」

 黒野も楽しそうに笑うと、また真面目な顔に戻った。