実際、それまでの企業や組織では、「優秀なマネジャー」「優秀なリーダー」との評価を得ながら、定年を迎えて、その企業や組織を離れ、新たな職場で働き始めたとき、その新たな立場で、それまでのように活躍することができなくなるという人は、決して少なくありません。

こうした例として、しばしば挙げられるのが、大企業を退職して、新たにNPOなどで働き始めた人です。こうした人の中には、NPOに移っても、自分が「管理職」であった時代の習慣が抜けきらず、自分より年下のメンバーに対して、部下のように「指図」をしてしまう人がいます。実は、これは、昔の習慣が抜けないというよりも、新たな立場に合わせて自分の意識を変えられないという問題に直面しているのです。

また、こうした「雇用定年」でなくとも、その企業や組織で「管理職」の立場を離れる「役職定年」になった瞬間に「終わってしまう」人もいます。

それまで、「管理職」という立場にあり、部下を持っていたときには活躍できたにもかかわらず、その立場が変わった瞬間に、新たな自分の立場に適応できないという人です。

さらには、こうした「雇用定年」や「役職定年」だけでなく、その企業や組織で働く部署や部門が変わる「転属」や「転勤」になったとき、その新たな立場に適応できず、それまでの職場のように活躍できなくなるという人も、決して少なくありません。

「高く評価された経験」がある人ほど「脱皮」が難しくなる

では、どうして、「立場」が変わると、それまで優秀であった人が、その優秀さを発揮できなくなるのか。

実は、そうした状況が生まれてしまうのは、多くの場合、「職業的能力」の問題以上に、「対人的能力」の問題が大きな原因となっています。

すなわち、「新たな職場」や「新たな仕事」においては、職場の上司や部下、同僚と、それまでの職場や仕事とは全く違った心構えや心の姿勢で接することが求められるにもかかわらず、それを身につける必要性に気がつかないか、気づいても、それをどう身につければよいか分からないのです。

言葉を換えれば、その「新たな職場」や「新たな仕事」において、それまでの自分とは違う「新たな自分」へと脱皮しなければならないにもかかわらず、それができないのです。

特に、それまでの職場や仕事において「優秀」という評価を得てきた人ほど、その「成功体験」と「成功感覚」が邪魔になって、「新たな自分」への脱皮ができないのです。
その「新たな自分」が、どのような自分であり、その「新たな自分」へと、どう脱皮していけば良いのかが分からないのです。

従って、もし、あなたが、転属や転勤、役職定年などによって、新たな職場で働くことになり、それまでとは違う「立場」に置かれ、自分を、どう変えればよいか戸惑っているならば、同書で述べた「多重人格の技法」を始めとする「成長の技法」を実践してみてください。

また、もし、あなたが、「雇用定年」を迎え、第二の人生に向かって「新たな自分」へと脱皮する必要性を感じているならば、やはり、最新刊『なぜ、優秀な人ほど成長が止まるのか』で述べた「自己観察の技法」を始めとする「成長の技法」を実践してみてください。

必ず、自分の何を変えなければならないか、自分をどう変えていけばよいのかが、見えてくるでしょう。